外電によると、国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長(ベルギー)は「仰天した」と言ったそうだ。誰もが同じ感想をもったに違いない。 今年2月、ソルトレークシティー(アメリカ)で行われた冬季オリンピックのフィギュアスケートの不正採点問題に関連した買収の疑いで、ニューヨーク連邦地検がロシア人容疑者を逮捕した、と発表したのである(7月31日)。 あの事件―ペアの採点で、フランス人ジャッジ(審判員)に不正があったとされ、ロシアに次いで2位となったカナダ・ペアにも金メダルが与えたれた前代未聞の一件である。 国際スケート連盟(ISU)が、2ヵ月後に不正な判定をしたとしてフランス人ジャッジ1人と同国スケート連盟会長を3年間の資格停止にしたことで、「終わったもの」と思われていた。 ところが、不正採点どころではなく、刑事事件に発展してしまったのだ。 否定のニュースを含めて、毎日のように状況が動いており、大会当時と同様、事実と断定すべき材料には欠けるが、花形競技をめぐってのスキャンダルだけに、オリンピックそのものへ与えるダメージは、極めて大きく、深い。 背景や底流として、フィギュアスケートが、他のスポーツに比べて、ショウビジネスに近いことが一因にある。 オリンピックや世界選手権でのランク(順位)が、ショウスケーター、プロ競技者としての「格」に響くのだ。 長野オリンピック(98年2月)の直後、オリンピックプログラムとは離れて東京で、メダリストを中心としたエキジビションが開かれた。 この時、メダリストの1人に、早くもエージェントが付き、このイベントへの出演料や、帰途の航空機のクラスなどの交渉に現れた、という。 要望された出演料は高額で、オリンピック閉幕直後のことだけに、主催者はそれこそ「仰天した」ようだが、人気、実力抜群の同選手を欠いては、と条件をほぼ受け容れた。 その選手が、本番以上のスマイルを東京のリンクで振りまいたのは云うまでもない。 今回逮捕された容疑者は、スポーツにとどまらず、数々の国際的な黒いマーケットで暗躍していた人物のようで、その取引品目の1つに「フィギュアスケートの採点」があったものか。 採点競技の客観、主観は、宿命的なテーマだが、そこに外部の者がからんでいたとなると、今後のなりゆきによってはオリンピックにおけるフィギュアスケートの"ありかた"にまで、火の粉は飛び散りそうだ。 |