緑の芝生の上を裸足で走り回る子供たち、ラグビー、サッカー、など本格的なスポーツからレクリエーションまであらゆる身体活動が、安全に、楽しく経験できる芝生の効用が言われて久しい。 日本サッカー協会川淵三郎キャップテンは常々、日本中の学校グラウンドの芝生化を夢見てその想いを熱く語っている。
しかし現状を振り返れば、芝生化事業は政府や公益団体の助成により一部において推進されているが、その歩みは遅々として進まない。 そんな中で地方のNPO法人の動きが注目される。
ニュージーランド生まれの二ール・スミス氏が理事長を務めるNPO法人グリーンスポーツ鳥取は僅かな資金を元手に芝生の運動場を運営するユニークなクラブだ。 12月10日、広島での全国スポーツクラブサミット(広島市)で開催されたシンポジウムで同席し、詳しい話を聞くことが出来た。
スミス氏は、特にラグビー、サッカー競技を行うには日本の土のグラウンドは危険且つ不適当と口を極めて述べている。 ラグビーは格闘技と言い切る同氏によれば、転べない、スライディング出来ない、土のグラウンドで練習を強いる関係者の見識を疑うとまで言う。 ラグビー強国と呼ばれる国々では、芝生以外考えられないのであり、彼らから見れば日本はいつまでたっても強敵に為りえない国というのが国際常識なのだ。 さて鳥取の同氏は、難色を示し断る口実を次から次と繰り出す役所を強引に口説き落とし、何と公共の空き地を租借し、更に芝生化を自分たちで実現したのだから恐れ入る。
文字通りゴールポスト真下へとトライしたが如きの胸のすくような快事ではないか! 2002年12月、沼地に近い石も転がっている空き地を会員の協力で整備し、翌年11月まで10数回にわたる石拾い、トラクターによる整地のみで5月から8月に夏芝を植栽し、経費は約150万円。2005年7月には30種類の草が混在する芝生のグラウンドが存在している。 年間維持費は100万円以下、50〜60回の芝刈り、10回の施肥、草取りなし、除草剤なし、利用制限なしの多目的運動場である。
強力フォワードを彷彿とさせるスミス氏の“前へ!”の強い意志が会員を引っ張り、全員でスクラムを組み、成し遂げた快事である。 同氏は基調講演にも登壇し、日本ラグビーがこの数年、ラグビー母国を自認する英国を始め豪州、ニュージーランド、フランスなどと対戦し100点近い大差で一蹴されている事実を挙げ、敗因の理由を独自の見解で分析した。 それは芝生のグラウンドの数に比例していて、上に述べた国の中に土のグラウンドでラグビーを行う国は皆無であることだ。
なぜならば転べば怪我することが判り切っているグラウンドで、正しい練習やゲームは成立しないからである。 日本は、精神論で競技力向上を実現出来ると今でも考えている指導者が多く、芝生化への努力を明らかに怠っていて、協会や指導者の怠慢であると手厳しい。 政府、協会、指導者の考え方が芝生化を阻害している最大の要因であり、この事実を幾度となく伝えたが「お前は出入り禁止」と言われている。 同氏が実践して見せたとおり、芝生化は工事費、維持管理費が嵩むという我が国の一般的な通念を払拭する必要がある。 NPO法人校庭を芝生化する会(京都市)は先進的な取り組みを行っているが、それでも1u当り5000円前後の費用を要しており、u当り10分の1以下で実現したグリーンスポーツ鳥取とは比較にならないのである。
この団体はスミス氏に対して「本当に芝生を植栽しているのか?」ヒアリングに訪れ、説明を聞き納得したと言う。 全てのグラウンドが国立競技場や秩父宮競技場と同じレベルである必要は無いとスミス氏は断言し、勝手に伸びてくる草を刈り取りさえすれば、運動場として十分なレベルと指摘している。 スミス氏の分析、指摘を聞き、それらは納得性が高く、我が国の教育行政、国土行政がまず頭を切り替え、多額のコストを必要としない合理的な方法で芝生グラウンドの普及を行うよう指導して欲しいと感じた。 そして建設から運営を地域スポーツクラブに委ねることにより、地域の経済効果が誘発され、多様な雇用の場の創出を実現することが期待できる。 それらはスポーツ・マネジメント、スポーツ指導を学んだ学生、プロ競技をリタイアした人々など、多様な人材の活躍の場としても有効だ。 |