ワールドカップの熱狂が過ぎ去って40日。草の根歌人・俳人たちはそれをどう表現したのだろうか。新聞各紙(朝日・毎日・読売・産経・日本経済・東京)で目についたものを拾い出してみた。 ・キーパーはゴールの柱に寄りかかり 空を仰ぎてやがて崩るる ・サッカーの俄かファンになりたれば 予定番組飛ばし視てゐる ・鬼の顔になりたるごとく睨みつけ グランドに立つゴールキーパー ・一球を奪うプレーのあざやかさ そこだけ磁場が狂ったように ・大試合待ちゐるさいたま競技場 長き庇はそらを区切れり ・ダヴィデいま甦るごとイタリアの 若きがボール蹴る跳ぶ走る ・店に煎る珈琲(まめ)の産地国あまた出る ワールドカップは楽しからずや ・W杯互いの国歌流るるとき 胸じんとして敵味方なし ・これ程に世界を沸かすサッカー戦 世界平和へ一つになろう ・歓声は如何にとどかむ燃えつきて ボールにもたれし「カーン」のこころ ・セネガルの歓喜ゆったりと映しける 敗者フランス報道の真(ヴェリテ) ・ロシア戦勝利したるを分かち合う 知己なき町に夕陽見ており ・帰り来て「日本はどうした」子の訊くは 平和なりけり蹴球のこと ・大音響のニッポン・ニッポン一億が 愛国心の権化となって ・身を捨つるほどの祖国は知らねども 「ニッポン・ニッポン」の叫ぶ輪に入る ・ユニホームぬぎて交換する時に まざまざと見つ骨格の違い ・ドイツでは忿怒で選ぶ仁王立ち ゴールキーパーオリバー・カーン ・決勝進出に湧けるそのとき ドレン数本繋がれ夫はICUに ・W杯に南北統一応援団 われの子二人父祖の地を踏む ----- ・美しき青芝 うつくしきベッカム ・七変化サッカーボールとなる朝(あした) ・サッカーの芝叩きゆく白雨かな ・逃げ水の逃げ込むサッカースタジアム ・サッカーの観覧席に大西日 ・キーパーはポストに凭れ六月逝く ・サッカーと鮎解禁の月明くる ・サポーターの頬の旗まで玉の汗 この4月から、私は漢詩実作教室に月2回通い、七言絶句を作って添削をうけている。クラスメートは20名、平均年齢は70歳前後か。私にはまだできないが、大ベテラン2人がワールドカップをテーマに詩を作っていた。 観世界足球大会有感 市川泰 観客如狂耳欲聾 (観客狂うが如く耳ろうせんと欲す)
唱歌打鼓響天穹 (歌をうたい鼓を打ち天穹に響く) 国旗翻処彩衣満 (国旗のひるがえるところ彩衣満つ)
四海平和崩此中 (四海平和このうちにきざさん) 世界足球杯 江水武夫 輸贏決処盈電子 (勝ち負けを決するところテレビにみつ)
攻防自在皆屈指 (攻防自在みな屈指のもの) 掌中欲獲世界杯 (掌中にW杯をとらんと欲す)
応知選手心与技 (まさに知るべし選手の心と技) 奮戦巴西為冠軍 (奮戦したブラジル優勝をなす)
寰宇祭典終如是 (地球の祭典ついにかくのごとし) 以上の諸作品を読みながらあらためて感ずるのは、テレビの力、ということである。ドイツ代表のゴールキーパーがこれだけ歌われるのは、テレビ中継のクローズアップが再三再四流されたからだろう。 それにしても、得点王のロナウドではなく、ゴールキーパーのカーンに視線が集中しているのは、いかにも専守防衛の日本らしい、と言えるかもしれない。 |