巨人の松井秀喜選手が米大リーグへ行く、と聞いて、これは面白ことになるぞ、とまず思った。日本のプロ野球に乱世到来、戦国時代の幕開け。巨人中心の天動説崩壊…といった感じだ。 2年程前、作家の伊集院静さんから、「松井選手が大リーグ入りした時、マスコミとも接するのだから、ある程度の日米の文学を読んでおいた方がいい、と読書アドバイスをしてるんですよ」と聞いていたから、今回のニュースに驚くことはなかった。いよいよその日がやってきたのだ。 松井選手の活躍は誰もが認めているように、間違いないだろう。イチローと新庄の成績を見ると、彼らが日本で残した数字はほぼそのまま、大リーグで可能だ、ということが分かる。だから松井選手も打率3割、ホームラン35本、打点100はいけるのではないか。 松井選手が活躍できるか出来ないか、よりも、彼が抜けたあとの巨人、というより日本のプロ野球の方が心配であり、またどうなるかと興味津々である。今、長嶋茂雄さんが強化本部長になって、2004年のアテネ五輪にドリームチームを送り込み、金メダル獲得を!という体制ができつつあるようだが、その程度のことでは、日本プロ野球の危機は回避できないだろう。 FA制度、やがては世界ドラフト制度などによって、アメリカン・ドリームを夢見る選手がどんどん出てくるだろう。それを押しとどめる有効な手立ては、今のところない。放っておけば、日本のプロ野球は、完全にアメリカ大リーグのマイナーリーグ化してしまう。 昨年、この問題を何人かに取材したことがあるが、その流れを止めるいいアイディアは見つからなかった。その中でも、巨人の渡辺恒雄オーナーの「愛国心に訴える」という意見と、『菊とバット』の著者で知られる評論家ロバート・ホワイティングさんの「日本の上位球団の大リーグ入り」という意見が印象的だった。 渡辺オーナーの意見はさておいて、ホワイティングさんの意見は「たとえば、アメリカ大リーグの東、中、西地区に加えて、日本地区をつくる」というものだ。 資本のしっかりしている、そしてフランチャイズもしっかりしている巨人、阪神、西武、日ハム、中日あたりの5球団で日本地区をつくれば、東、中、西地区との交流試合のための移動時間の問題はあるにしても、現役大リーガーの生の試合が日本でもたくさん観られることになる。そして、選手の流出、流入がよりスムーズに、また公平なものになろう。 アレックス・ロドリゲスやボンズなどスーパースターの超高額年俸に、日本地区の球団は果たして耐えられるか、という問題はある。しかし、今の高額年俸はいささか常軌を逸している。どこまでも青天井というわけにはいくまい。どこかである常識の線がでるはずだ。 そして、大事なことは、それと並行して、日本、韓国、台湾、中国できればオーストラリア、ハワイまで含めて、パンパシフィック・アジアリーグを創設することだ。野球の拠点をアメリカとアジアに置く、その架け橋的な存在としての日本、という構図である。日本野球発展のための100年構想だ。 夢のような話だと一笑に付されそうだが、それくらいデッカイ夢を描いて進まなければ、日本野球の新たな発展はないだろう。 そのための最低の必要条件は、少年野球からプロ野球まで、さらに高齢者の生涯スポーツ的な野球にいたるまで、その全てにかかわる日本野球統一機構をつくることだろう。今のように、プロとアマ、社会人、大学、高校…とバラバラの組織では、100年構想などを出てくるはずがない。 日本の戦後50年は、アメリカの核の傘の下、文化の傘の下にあった。イチローや松井の大リーグ入り、そして、日本地区づくりは、一見、日本がアメリカ野球の傘に下に入るかに思える。 しかし、右の目でアメリカを見、左の目でアジアを見ることで、アメリカの野球の傘を、アメリカを越えて地球大の傘に広げることができないだろうか。そうあって欲しい、と思う。 |