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100号記念メッセージ

■vol.110 (2002年8月28日発行)

【杉山 茂】 サッカー人気は今こそJクラブが荷え
【糀 正勝】 草野球とプロ野球
【中村敏雄】 校庭の芝生化
【市川一夫】 スポーツ用品産業の現状


◇サッカー人気は今こそJクラブが荷え
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

Jリーグの2ndステージが、8月31日に幕をあける。

「アフター・ワールドカップ」のさまざまな影響が、いよいよ"本格的に"Jリーグの舞台へ映し出される。

興味深い、というより、怖い気もする。

7月13日に再開された1stステージはワールドカップの効果が現れていた。数字(観客数)がそれを示す。

2002年度入場者動向
J1/観客数
J1/1試合平均
J2/観客数
J2/1試合平均
ワールドカップ前
(J1:7節/J2:15節)
859,651人
15,350人
516,229人
5,735人
ワールドカップ後
(J1:8節/J2:12節)
1,158,230人
18,097人
549,943人
7,638人

サッカーそのものへの関心。代表選手に対する注目。ワールドカップスタジアムへの人気。J1の最終週にもつれこんだ首位争い。そして「夏休み」…。

ワ−ルドカップ後の1試合平均入場者(J1)は、久々に94年シーズンにマークした最高記録19,598人に迫るものだ。

しかし、この勢いを、2ndステージに持ちこめるかとなると、バラ色ばかりに彩られているわけではない。

先週末の2002JOMOオールスターサッカー(埼玉スタジアム2002)のスタンドは、例年以上に日本代表のレプリカを着たサポーターが目についた。

また、各クラブとは無縁とまでは言わないが、日本代表との間に一線を引く層は、シーズン毎に増えている印象だ。その代表的な存在は、民放キー局と言ってもいい。

前掲したハッピーな数字も、1stステージとしての前年比では、僅かながらマイナスを打ち出している。

クラブが、いかにファンのハートをつかむか。

5年前(97年シーズン)、1試合平均入場者10,131人(J1)までに落ち込んだ姿からは復調したが、クラブ関係者と話していると、当時の不安が、完全には拭い去られてはいない。

ワールドカップを身近にしたことで、これまでサッカーへ距離を置いていた人たちも、改めて、このスポーツのあらゆる面での凄まじさを知った。

それが、大会前と後との1試合平均2,700人のプラス(J1)へつながったのならば、2ndステージ以降、この"原資"をいかに大切にふくらませるか、である。

日本代表の"勇名"にすがり、スタジアムの威容に寄りかかってのJリーグであり、クラブであっていいわけはなかろう。

私が予感する"怖さ"は、そこから湧いてくるのだ――。

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◇草野球とプロ野球
(糀 正勝/インター・スポーツ代表)

プロ野球は終盤戦を迎える。

セ・リーグは巨人、パ・リーグは西武の独走で終わりそうであり、残された楽しみは個人記録の更新と松井選手のメジャーリーグ移籍に絞られてきたようだ。

個人記録では松井選手(巨人)の三冠達成が最も注目される。8月27日現在で首位打者、ホームラン王、打点王の3部門でリードしている。本人はメジャーリーグ移籍に関して、慎重に公式発言を控えているが、それだからこそ逆に、松井選手のメジャーリーグ移籍にかける意気込みが伝わってくる。

パ・リーグでは、カブレラ(西武)、ローズ(近鉄)のホームラン王争いが注目される。昨年もローズが55本の日本記録に挑戦したが、最後の最後で日本的な愛国心(アメリカ人にタイトルを取らせない)と、上役に対する忠誠心(コーチが監督のタイトルを守るというゴマすり)に阻まれた。ローズは徹底的に敬遠され、歩かされて混乱し、記録達成に至らなかった。

今年も同じことが繰り返されそうな予感がする。先日の西武対ダイエー戦で、カブレラ選手は2度も敬遠され、その前兆が見えたからだ。

王監督は、「私の指示だよ。2試合で3発も打たれてもっと打たれてくださいというのか。こっちは勝負やってんだ。草野球をやってんじゃない。当然じゃないか。」(日刊スポーツ)

「草野球では勝負して、プロ野球では敬遠が当然だ」というこのコメントには正直驚いた。

確かに、草野球は遊びだから楽しくプレーする。選手は楽しみながら試合をやっている。だから、1点を恐れて敬遠なんかする必要はないというわけだ。いやいや、現実の草野球は結構厳しいものがある。勝ったり、負けたり、打てたり、打てなかったり、選手は一喜一憂しながら真剣なプレーをする。草野球もバカにしたものではないという外野の声もある。

プロ野球は仕事である。しかも、観客から入場料を取って試合を見せる仕事である。選手や監督・コーチの給料は観客の入場料や野球ファンが視聴するテレビ放映権料で支払われる。西武ファンもダイエーファンもプロの最高の技術対決を見るために金を払っているはずだ。

プロこそが勝負をしなければならない。西武ファンは2試合で3発も打つカブレラが見たいからお金を払ってスタジアムに出かける。ダイエーファンもそのカブレラを押さえて、本塁打を打たせない投手陣のパフォーマンスを期待して応援している。それがプロ野球ではないのか。

どんな記録も破られてこそ価値がある。いつまでも55本体制を死守するのは日本だけだ。

一昨年のメジャーリーグでマーク・マグワイアが不滅といわれたロジャー・マリスの61本の本塁打記録を更新した。続いて翌年には、そのマグワイアの不滅の記録がバリー・ボンズによって更新された。次々と記録が新しく塗り替えられるからこそ、メジャーリーグは人気があり、魅力がある。

日本プロ野球がいつまでも55本体制にこだわり、バースやローズやカブレラの記録更新を阻止するのであれば、より高いレベルでの競争とフェアプレーを望む多くの日本人選手はどんどんメジャーリーグに移籍するだろう。技術と記録への挑戦こそがプロスポーツだ。

第84回全国高校野球選手権では、あの明徳義塾が優勝した。

1992年夏の甲子園、明徳義塾の馬渕監督は、1回戦の星陵戦で松井秀喜選手(現巨人)に対して5連続敬遠を指示した。勝負至上主義の采配は試合後多くの非難を浴びた。続く2回戦では選手が萎縮し、敗れた。

あれから10年、優勝した馬渕監督は語った。

「選手を信じることが一番」と――。

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◇校庭の芝生化
(中村敏雄/元広島大学教授)

今年の6月2日、故石原裕次郎氏の夫人が京都の嵯峨野小学校に芝生を贈ったというニュースがあった(日刊スポーツ、6月3日)。

故人の遺志によるとのことで、東京の自宅から10キロの土を運び、100万円の工事費も寄付したという。これは1,800平方メートルの中庭の芝生化に必要な総工事費1,000万円の1割に当たり、残る900万円は「全国の小中学校の校庭芝生化プロジェクト」を発案、推進している京都経済同友会が負担するという。

校庭の芝生化は、東京でも杉並区の小学校などで行われており、次第に各地へ波及しつつあるらしい。Jリーグも「スポーツターフ研究会」を発足させ、わが国の風土に合う芝生の育成、管理のノウハウを確立しようとしている。

ワールドカップの共催に伴うキャンプ地づくりがこのような傾向を後押ししたと思われるが、話を上記の嵯峨野小学校に限定していえば、石原夫人が寄贈したのは「中庭」の一部であって、全校生徒がもっともよく使う「校庭」ではなく、また当然のことであるが、その後の維持、補修費は行政とPTAの負担になる。

Jリーグの公式サイトで川淵三郎氏は校庭の芝生化について、「つくろうと思えば絶対にできたはず」と過去の無策を批判し、石原夫人の行為はこれに応える意味をもっている。しかし、国民の誰もが良く知っているように、わが国の「安上がり教育行政」がこれを継承、支援するとは考えられず、その不足を経済同友会が肩代わりし続けるというのもありえない。

池田潔氏が『自由と規律』の中で次のように述べているのを記憶している人は多いだろう。

「ケンブリッジのトリニティ・カレッジの前庭で、参観に来たアメリカのある大富豪が、ローラーを押しているみすぼらしい身装の園丁に十円札をつかませて、芝生の手入れの秘訣を尋ねた。水をやりなさい、ローラーをかけなさい。・・・それを毎日繰り返して五百年経つとこうなるんで」。

この「ある大富豪」はロックフェラーでもモルガンでもよいが、「園丁」が、同校の校長でノーベル物理学賞を受賞したJ・トムソン教授だったというのがこの話のオチで、「五百年経つとこうなる」が、アメリカに対する皮肉であることは言うまでもなく、これをわが国に向けたものと受けとることもできなくはない。

かつて私も高校の体育教師時代に芝生化を考え、スポーツ施設会社の社員と放課後のグラウンドを眺めながら話したことがある。

「陸上競技部、野球部、サッカー・ラグビー部の選手は全員スパイクを履いて練習しますが、もっともグラウンドを『耕す』のはサッカー・ラグビー部で、芝生化には最低でも第一、第二グラウンドが必要です」と彼は話し、私は計画の立案を断念した。

その後、機会があって、ラグビー校やイートン校を訪ねることがあり、全校生徒数から考えてサッカー、ラグビーのグラウンドが多すぎると思ったが、これは第一、第二、第三というようにグラウンドを区別して交互に使用するために必要な施設数であり、芝生の維持にはそういう配慮が必要で、これもまた「五百年の知恵」のように思われた。

しかし、このような贅沢が許されないわが国での芝生化には無理があり、すでに芝生化を実現している小学校でも、いずれは「芝生に入らないで下さい」という立て札を立てるのではないだろうか。

校庭の隅に物置になった温室やペンキの剥げかかった百葉箱があるのを見れば、誰でもそう思うのが自然であり、芝生化に熱心な校長や教師が転勤した後の芝生がどうなるかをこの温室や百葉箱が暗示している。

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◇スポーツ用品産業の現状
(市川一夫/スポーツライター)

vol.107(8/7発行)にて述べたスポーツ産業学会第11回大会のワークショップにおいて、興味深い事例が発表された。

「スポーツ用品産業を考える」というテーマで、米国スポーツ用品工業会(SGMA)の代表と、日本から、国内スポーツ用品メーカー【A社】の取締役がそれぞれ発表を行った。お互いにデータを駆使し、鋭い分析を加え、中身の濃い内容であった。

その中で、最も印象に残ったのは、セッションの最後に出た、【A社】取締役の以下の発言である。

『【A社】は、長年、陸上競技用スパイクシューズの開発に注力し、市場シェアも高かったが、競技者の減少傾向が著しく、販売数量、金額ともに減少が続いている。その一方で、スポーツ・リクリエーション種目として考案され、地道な普及活動を継続しているグラウンド・ゴルフは年々参加者が増加し、それに伴い、用品販売高、利益も上昇し、遂に陸上競技用スパイクシューズの売上高を超えた。』

気に留めなければ何とも無い話である。しかし、発言者は業界において競技スポーツ一筋、特に"陸上競技界においてこの人あり"とまで言われている人物で、その発言には重みがある。

陸上競技用スパイクシューズは、種目数が多く、各種目の特性に応じた高度の機能を必要とし、それぞれサイズも異なり、競技者数自体が少ないので、開発コスト、生産、販売、在庫回転率、どれを取っても極めて効率が悪く、確かに利益が上がらないアイテムである。例えば、その生産は熟練職人依存型である為、後継者難であっても海外生産へシフトができない。メーカーから見ると誠に厄介な商品アイテムなのだ。

しかし、スポーツ用品メーカーは単に利益や効率だけを追及しているのではない。大きな意味で、スポーツの振興・発展を旗印に、陸上競技者・愛好者へ優れた商品を提供し、そのブランド力やイメージを評価して貰うために、今日でも激しい開発競争を繰り広げているのである。

そこで、上記の発言に立ち返ってみる。これは、【A社】が、世界で1、2を争う陸上競技用品重点の事業展開から、社会構造の変化をにらみ、今後成長が期待される生涯スポーツ市場にも注力し、利益性を指向するということではないだろうか。

陸上競技用スパイクシューズのようなブランドの露出やイメージ作りも、スポーツ用品メーカーとしては、確かに必要である。しかし、それ以上に、確実に利益を上げるということが、厳しい経済状況下の企業戦略として大事であることが読み取れる。

陸上競技用スパイクシューズとグランド・ゴルフ用品。

この先、【A社】が企業戦略上、両分野をどのように扱うのか注目してみたい。

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