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100号記念メッセージ

■vol.113 (2002年9月18日発行)

【杉山 茂】なくなる?柔道の「旗判定」
【早瀬利之】ゴルフ試合3日目のテレビ中継に工夫を
【糀 正勝】ヨーロッパサッカー開幕
【大島裕史】ワールドカップの余韻に浸る韓国
【広瀬一郎】サッカー・ビジネス新世紀に新たな影 〜終わりの始まりなのか〜


◇なくなる?柔道の「旗判定」
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

柔道が、いっそうJUDO色を強める。

国際柔道連盟(IJF)は、これまで規定時間内に優劣のポイントがつかなかった場合、審判員の「旗判定」で決着させていた。

それを、5分間の"延長戦"を行って、先にポイントをあげた選手が、その瞬間で勝ちとなる新ルールを採用しようというのだ。

サッカーのVゴール方式の柔道版で、すでに、ヨーロッパでは「Vスコア」の名で、多くの大会に導入され、IJFも、9月半ばの世界ジュニア選手権(韓国)で試験的に採り入れた。

「旗判定」よりはすっきりするし、大会の度に、あいまいな判定で生じるトラブルを防げるが、小さなポイントでもVスコアとなるため、延長後の試合内容が低くなる、という指摘もある。

特に、日本は「1本」を"至上"とする伝統が濃く、このルールが提案されたときから、難色を示していた。

国内の関係者は「柔道本来の姿を失う」として、カラー柔道着問題でも反発、ヨーロッパ勢などと衝突したが、今回も結局は折れることになりそうだ。

来年9月の世界選手権(大阪)がこのルールの"初大会"になるのは間違いない、という見方が強くなってもいる。

総て、時の流れに逆らわず、というわけではないが、スポーツのルールは、発祥国、伝統国のこだわりだけで、いつまでも進むものではない。

カラー柔道着も、Vスコアも、より見やすく、よりスピーディにという、現代スポーツの風を受けてのものだ。たぶんにテレビ映(うつ)りを意識したもの、との声も否定はできないだろう。ダイビング(飛び込み)でペア種目が考案され、射撃やアーチェリーで、1対1の勝ち抜き方式が主流となる時代なのだ。

もっともテレビ界にとって、VスコアやVゴールは、競技時間(放送時間)が読みにくく、総てOKというわけではない。

日本の柔道は、トップレベルこそ世界最上位の定評を確保しているものの、愛好者数の伸びなどはヨーロッパのいくつかの国の勢いに、越されている。

国内の「ジュードーカ」(柔道家)を増やすためにも、近代化をためらってはなるまい。

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◇ゴルフ試合3日目のテレビ中継に工夫を
(早瀬利之/作家)

ゴルフの中継番組をテレビで拝見した。テレビ中継はかれこれ20年前から見ているが、この頃の番組はつまらなくなったというのが実感である。

男女とも、スターらしきスターがいない。ショーマンとして欠ける。男子の試合は、まるで「大学プロゴルフ選手権」みたいで、ジュニアゴルフの延長戦を見ている感じでつまらない。

勝負しているムードが伝わってこない。何と戦っているのか、何の目標を持ってプレーしているのかが、見る方には分からない。プロなら「勝ちたい」「記録を更新したい」「連勝記録を作りたい」という気迫が伝わる試合をやってみせるべきだが、それがない。

そこにきて、テレビ中継は起伏のない、ドラマのない放送に終っている。

まず、土曜日の中継だが、視聴者が知りたいのは、初日から土曜日の3ラウンドまでの各選手の戦いであり、3ラウンドでトップに立った選手が、初日、2日にどんな内容のゴルフだったかである。つまり、3ラウンド目の中継は、初日からの延長上にあるもので、優勝争いではないとはっきりしたスタンスを見せて欲しい。

2日目にトップか、3位グループにいた選手が3日目に崩れても、現場に行けないファンは何故崩れたのか分からないし、彼らがどういうショット、パットをしているのかも知りたいのである。

ところが、今年のサントリーオープンの如く、3日目はまるで優勝争いのようにトップグループしか取り上げないのは、余りにもファン心理が分からないディレクター君の"オチ"というものだろう。優勝争いは最終日だけにして、3日目は少なくとも15人くらいは取り上げてやるべきだと思う。

そのことは、選手への配慮ではなく、ファンへの配慮であるからだ。15人の選手にはそれぞれの現場へ行けず、テレビで見るファンがいることを忘れないで欲しい。

不調な選手はカットするというやり方は、ゴルフ番組ではなく、芸能番組である。陸上競技とは違い、3日目はまだ予選であり、決勝日ではないことを頭の片隅に置いて欲しい。

優勝争いは最終日だけでよろしいわけで、土曜日の3ラウンドの試合は好調、不調でも、上位でスタートした選手や話題の選手の身近な話を伝えて欲しいものである。

このままではファンにアキられてしまう。

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◇「ヨーロッパサッカー開幕」
(糀 正勝/インター・スポーツ代表)

ヨーロッパのどのリーグでも、放映権のバブルがはじけて苦しい経営環境の時代を迎えた。

放映権の配分をめぐって交渉が続いていたイタリア・セリエAもようやく9月14日に開幕した。

レッジーナに移籍した中村俊輔選手にとっては待ちくたびれた開幕だった。チームに一日も早く溶け込もうと涙ぐましい努力をした。たった1試合の開幕戦の敗戦だけを取り上げて、中村選手の未来を予告することは出来ない。新しい挑戦は今始まったばかりだからだ。

9月14日にバイア・アレーナでドイツ・ブンデスリーグの試合観戦をした。バイアー・レバークーゼン対ハノーバー96との第5節の試合だ。

昨シーズンのレバークーゼンは、ドイツサッカーの悲劇を象徴していた。

昨年、レバークーゼンは破竹の勢いで1年間を戦い抜いた。ところが、3度の決勝で3度の失望を味わった。

まず、ドイツカップ決勝でシャルケ04に敗れた。続くドイツ・ブンデスリーグの最終節ではよもやの敗戦を喫し、あれほど望んでいたマイスターシャーレをボルシア・ドルトムントに譲った。そして、ヨーロッパ・チャンピオンズリーグ決勝では、レアル・マドリードにただ一度だけ敗れ去った。

バイア・アレーナのピッチの上には、スター軍団があふれていた。ルシオ(ブラジル代表)がいて、ラメロウ、シュナイダー、ノイビル、キルステン等のおなじみのドイツ代表選手、さらに森島選手にとてもよく似たバスチュルク(トルコ代表)がピッチを駆け回っていた。バスチュルクの技ありシュートで先制した時はレバークーゼンが圧勝するだろうと思った。

ところが、やはりサッカーである。

開幕以来一度も勝ち星のないハノーバー96は必死の反撃を試みた。昨年ブンデスリーグ2部で圧倒的な強さで勝ち進み昇格してきたハノーバー96は、ブンデスリーグ1部の壁を乗り越えられずにいた。この試合に負ければ5連敗となり、ラングニック監督の進退すら危ぶまれた。

しかし、移籍してきたばかりの元ドイツ代表ブビッチの2ゴールの大活躍もあって、ハノーバー96は3対1で初勝利をあげた。遠くハノーバーから駆けつけてきたサポーターの熱狂はバイア・アレーナに満ち溢れた。選手たちは久し振りの勝利に酔い、スタンドのサポーターにユニホームを投げ込んだ。レバークーゼンは今年も悲劇を繰り返すのだろうか。素晴らしいピッチ、洗練されたVIP席、スタジアムに隣接したアレーナホテル、何面もの緑の芝生の練習グランド等、最高のスポーツ環境を誇る。今年こそは昨年の悲劇を乗り越えて欲しいと心から祈った。

翌日はブレーメンに移動して、U-15ユース国際大会を観戦した。ドイツのトップクラブのユースチームを中心にオーストリア、デンマーク等、招待チーム10チームが参加する。

35回目の今年は、ドルトムント、シャルケ、レバークーゼン、ハンブルグ、ブレーメン等の力が拮抗しているそうだ。放映権バブルがはじけ、即戦力の大型移籍が困難となった。これからのクラブ間の競争は、ユースの育成能力が問われる時代に回帰する可能性が高い。それだけに指導者も実に熱心だ。

日向ぼっこをしながら日本人選手の海外移籍を考えた。

若い世代のタレントと競争するためには、良いスポーツ環境と良い指導者が一番必要だ。

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◇ワールドカップの余韻に浸る韓国
(大島裕史/スポーツジャーナリスト)

10日ほど前、南北サッカー取材のため、ワールドカップ以来、約2か月ぶりに韓国に行ってきた。

ワールドカップが完全に過去のものとなった感のある日本と違い、韓国の街には、ワールドカップの余韻が満ち溢れている。日本でもお馴染みになった“Be The Reds”と書かれた赤いTシャツは今でも売れており、着て歩いている人もかなりいる。ソウルのワールドカップスタジアムなどは、ワールドカップの写真展も開かれている。テレビでは相変わらず「テーハンミング」を連呼している。ワールドカップ関連本も売れており、中でも、ヒディンク監督の自叙伝はベストセラーになっている。

今回、足を伸ばして西帰浦にも行ってみた。

韓国の南部・済州島にある西帰浦のスタジアムは、先の台風で美しい屋根のシートが3分の1ほど吹っ飛んでしまい、かなり変わり果てた姿となってしまった。この事態が、大会期間中でなかったのは不幸中の幸いであるが、もともと大会後の利用に大きな問題を抱えているスタジアムだけに、修理をするにしても、その費用は大きな負担だ。

それでもこのスタジアムは、リゾート地である済州島の観光名所になっている。私が行った時は、平日にも関わらず、駐車場には大型バスが停車し、大勢の観光客が詰め掛けていた。そしてスタジアムを訪れた人の多くは、グラウンドに向かって「テーハンミング」と叫んでいた。

ベスト4進出という快挙を成し遂げた今回のワールドカップは、韓国人にとって、夢のような日々であった。夢の余韻は、どうやらアジア大会にまで引き継がれそうな雰囲気だ。

この余韻により、最も得をしている人物は、韓国サッカー協会の鄭夢準会長である。

12月に行なわれる大統領選挙の有力候補として注目されていた鄭氏であるが、実際の評価は、泡沫候補にすぎなかった。しかし、ワールドカップの成功によって、人気が急上昇。8月には、2大政党からの立候補者の支持率を凌ぐまでになった。2大政党の候補者の失点による部分もあるものの、鄭氏は、ヒディンク監督とともに、ワールドカップが生んだ、ヒーローとなっている。

そして、9月17日、彼は大統領選挙への出馬を正式に表明した。韓国の大統領選挙は、メディアを有効に使ったイメージ選挙に変わりつつある。こうした選挙では、相手の弱点を攻撃するネガティブキャンペーンが盛んになる。出馬を正式表明した鄭氏も、ネガティブキャンペーンの標的になることは、間違いない。それに鄭氏は、どう対応するのか。

国家的行事として取り組んだ韓国のワールドカップには、どうしても政治の影が付きまとった。ワールドカップの興奮の中で、その影は見えにくくなっていたが、大統領選挙とともに、また浮かび上がってきた。その成り行きによっては、ワールドカップ余韻も、かなり苦いものになるかもしれない。

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◇サッカー・ビジネス新世紀に新たな影 
〜終わりの始まりなのか〜

(広瀬一郎/メディアプロデューサー)

毎回のワールドカップ大会の後、通常は「誰それが数十億円で移籍!」という気前のいいタイトルが新聞紙上に躍る。

ところが、今回はそれどころか、「インテル(ミラノ)の高額年俸三選手、ロナウド、ビエリ、レコパが年俸の10%を返却申し入れ」、である。

何かが始まりつつある。

優勝したブラジルの中心選手リバウドは契約期間が満了していないのにもかかわらず、移籍金ゼロでバルセロナからACミランに移った。バルセロナは2003年まで残っていた契約を破棄し、自由契約にしたのだ。バルサは今後のマーケットを考えると、将来得られるであろう移籍金を失うより、目先のコスト削減を選択したのだ。

こうした動きの最大の原因は、キルヒとITVデジタルが大会直前に破綻したことである。

キルヒはドイツのブンデス・リーガの放映権を高額で取得しており、ITVデジタルはイギリスのプレミア・リーグの下部リーグである(日本ではJ2にあたる)「ディビジョン」の放映権を取得していた。両リーグとも今後の放映権収入に大きなマイナスが生じることは間違いない。

予兆として、大会直前の5月の半ば、イングランドのディビジョン1(1部リーグ)のブラッドフォード・シティーが1300万ポンド(約25億円)の負債を抱え破算を申請。原因は、破綻したITVデジタルが放映権料未払いのまま清算されたため、チームへの分配金が消滅。高額年俸の選手を集めプレミアへの復帰を目指し、自転車操業をしていたブラッドフォードの経営を直撃したのだ。他にもチェルシーを含め数チームが破綻寸前だと言われている。

キルヒはグループ内の有料放送を事業として存続させるには、400万の加入者が必要とされていたが、獲得できたのは2002年時点で240万に過ぎず、この見込み違いによって2002年の4月4日、キルヒ・メディア社が破綻した。キルヒからの放映権収入が期待できなくなったブンデスリーガは、2002年に2億ユーロの資金不足に陥る恐れがある。

イタリアのセリエAは、2001/2002年シーズンに全18チームの赤字合計が11億ユーロ(約1300億円)に達した。2002年8月にはついにフィオレンティーナが経営破綻。ルイ・コスタなどのスター選手を売却して負債に当てたが、経営再建はならなかったのである。市の全面的な支援のもとセリエC2からの出直しとなった。

1990年代半ばに始まった「サッカーのTV放映権バブル」の終焉がついに始まったのだ。

放映権料暴騰のきっかけは1992年に創設されたプレミアリーグの独占放映権をマードックが従来の5倍の3億ポンドで取得したことだった。

その後の10年で放映権の相場は約10倍になり、それは多くのサッカークラブに年率20%という収入増をもたらし、確かに一旦は潤った。プレミアリーグの2000/2001年の収入は5年前のほぼ2倍になっている。だが、その後、それらの資金の流入(つまり放映権で収入が増えた分)は選手の移籍金と年俸にまわり、結果として、選手の人件費の暴騰を招き、チーム経費は高騰したTV放映権料でも賄えなくなってきてしまったのである。

欧州各国のトップ14クラブで構成する「G14」では、今や選手の年俸に上限を設けたり、配下の選手数を25人に制限する案が真剣に討議されていると言われている。

現時点でこの動きがどの程度の速さで広がるのか、ソフトランディングができるのか、落としどころはまだ見えない。ただ一つ言えることは、サッカーの放映権を回収見込みのないまま高額で落札するものは、今後当分現れないだろう。そして、それはサッカーのクラブ経営の収益に深刻な影響を与えるだろう。

あのジダンがお安い値段で売りに出される日も遠くないかもしれない。寂しいことではあるが、それはそれで健全化につながる「痛みある改革」なのかもしれない。

そうであることを、一サッカーファンとしては切に願うのみである。

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