毎回のワールドカップ大会の後、通常は「誰それが数十億円で移籍!」という気前のいいタイトルが新聞紙上に躍る。 ところが、今回はそれどころか、「インテル(ミラノ)の高額年俸三選手、ロナウド、ビエリ、レコパが年俸の10%を返却申し入れ」、である。 何かが始まりつつある。 優勝したブラジルの中心選手リバウドは契約期間が満了していないのにもかかわらず、移籍金ゼロでバルセロナからACミランに移った。バルセロナは2003年まで残っていた契約を破棄し、自由契約にしたのだ。バルサは今後のマーケットを考えると、将来得られるであろう移籍金を失うより、目先のコスト削減を選択したのだ。
こうした動きの最大の原因は、キルヒとITVデジタルが大会直前に破綻したことである。 キルヒはドイツのブンデス・リーガの放映権を高額で取得しており、ITVデジタルはイギリスのプレミア・リーグの下部リーグである(日本ではJ2にあたる)「ディビジョン」の放映権を取得していた。両リーグとも今後の放映権収入に大きなマイナスが生じることは間違いない。 予兆として、大会直前の5月の半ば、イングランドのディビジョン1(1部リーグ)のブラッドフォード・シティーが1300万ポンド(約25億円)の負債を抱え破算を申請。原因は、破綻したITVデジタルが放映権料未払いのまま清算されたため、チームへの分配金が消滅。高額年俸の選手を集めプレミアへの復帰を目指し、自転車操業をしていたブラッドフォードの経営を直撃したのだ。他にもチェルシーを含め数チームが破綻寸前だと言われている。 キルヒはグループ内の有料放送を事業として存続させるには、400万の加入者が必要とされていたが、獲得できたのは2002年時点で240万に過ぎず、この見込み違いによって2002年の4月4日、キルヒ・メディア社が破綻した。キルヒからの放映権収入が期待できなくなったブンデスリーガは、2002年に2億ユーロの資金不足に陥る恐れがある。 イタリアのセリエAは、2001/2002年シーズンに全18チームの赤字合計が11億ユーロ(約1300億円)に達した。2002年8月にはついにフィオレンティーナが経営破綻。ルイ・コスタなどのスター選手を売却して負債に当てたが、経営再建はならなかったのである。市の全面的な支援のもとセリエC2からの出直しとなった。 1990年代半ばに始まった「サッカーのTV放映権バブル」の終焉がついに始まったのだ。 放映権料暴騰のきっかけは1992年に創設されたプレミアリーグの独占放映権をマードックが従来の5倍の3億ポンドで取得したことだった。 その後の10年で放映権の相場は約10倍になり、それは多くのサッカークラブに年率20%という収入増をもたらし、確かに一旦は潤った。プレミアリーグの2000/2001年の収入は5年前のほぼ2倍になっている。だが、その後、それらの資金の流入(つまり放映権で収入が増えた分)は選手の移籍金と年俸にまわり、結果として、選手の人件費の暴騰を招き、チーム経費は高騰したTV放映権料でも賄えなくなってきてしまったのである。 欧州各国のトップ14クラブで構成する「G14」では、今や選手の年俸に上限を設けたり、配下の選手数を25人に制限する案が真剣に討議されていると言われている。 現時点でこの動きがどの程度の速さで広がるのか、ソフトランディングができるのか、落としどころはまだ見えない。ただ一つ言えることは、サッカーの放映権を回収見込みのないまま高額で落札するものは、今後当分現れないだろう。そして、それはサッカーのクラブ経営の収益に深刻な影響を与えるだろう。 あのジダンがお安い値段で売りに出される日も遠くないかもしれない。寂しいことではあるが、それはそれで健全化につながる「痛みある改革」なのかもしれない。 そうであることを、一サッカーファンとしては切に願うのみである。 |