正月恒例の箱根駅伝は今年も関東圏では30%を越す高視聴率を記録した。スポーツイベント目白押しの年初を飾るこの怪物イベントを独占で生中継する日本テレビや後援の読売新聞社は得意満面だろう。 その一方では、TBS中継の元旦の全日本実業団駅伝も行われ、ランナーのレベルはこちらの方が遥かに高いのだが、世間の注目度や視聴率、イベントパワーは何と言っても箱根駅伝に軍配が上がる。何れにせよ駅伝王国日本を代表する二大駅伝が正月三が日、お茶の間を占領する格好だ。 さて、この怪物イベントのテレビ視聴率の高さに着目するのは報道関係者だけではない。主役の選手が着用するウエア、シューズ等を供給するスポーツブランド各社もまた然りである。 79回の歴史を有する箱根駅伝であるが、スポーツブランド各社が積極的に参入したのは、往復全区間テレビ中継化されてからだ。 それ以前は各大学が長年付き合っていたスポーツブランドがそれぞれをカバーしていたに過ぎず、そのシェアも分散していた。その中でも、陸上競技の世界で長年の実績を培ってきたアシックスがマジョリティを占めていた。 しかし、テレビ中継の視聴率が上がるに伴い、陸上では後発のミズノが、トップ自らの陣頭指揮により、豊富な人・物・金を惜しげもなく注ぎ、瞬く間に出場各大学に食い込み、今やミズノ一色の様相を呈している。今年も総合優勝の駒大、3位日大、5位中央大と上位を制圧した。 余談ではあるが、各チームが襷と同様に重要視するユニホームの選定についても、有力OBや監督との長年にわたる人間関係、大学出入りのスポーツ用品店との関係、商品販売、提供の条件、商品の開発力(素材、デザイン、機能)、選手の希望などの背景がある。そのため、シード校は勿論の事、予選会で出場権を得る大学への不断の地道な人的活動も不可欠となっている。 高視聴率番組である箱根駅伝で、自社のブランドを身につけた選手が長時間お茶の間に飛び込んで来ることで、視聴者の脳裏にブランドが認識され、ブランド力評価に繋がり、最終的には商品購買に至ると目論むのはスポーツブランド各社にとって当然である。 ミズノの経営戦略を読んでも、陸上競技を制することが全てのチャンピオンスポーツにおける覇権に繋がると考えていることが理解でき、事実、ミズノトラッククラブ運営、日本陸連オフィシャルサプライヤー、箱根駅伝協賛など、目ぼしいものは全てと言って良いほど触手を伸ばし、手中に収めている。経営資源の重点活用により、高い宣伝広報効果を獲得し、販売成績に繋げるという戦略である。 しかし、長期間の投資継続に対し、市場において、それに見合う販売成績を得ているかについては、ブランド露出に必ずしも比例しておらず、関係者の悩みは尽きない。シェアを握っている箱根駅伝においても、レースを見た視聴者がブランドをどのように認知し、その後、ブランドの商品を購入したか、などのマーケット調査が行われたということも聞いた事がない。 陸上競技用品の最大需要は市民ランナー層であり、毎日曜日全国各地で開催される市民マラソンには老若男女多数の参加があるが、ミズノはこの市場では、依然として他ブランドに名を成さしめているのが実情である。 競技の頂点を制圧することは勿論重要な戦略である、しかし、本当の成功は市場占有率においてNo1になることである。それが実現して初めて戦略が完結することになるのではないか。 |