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大崎 悟史
 2004東京国際マラソン兼アテネオリンピック代表選手権選考競技会
  2位 大崎悟史
(C)photo kishimoto
SPORTS IMPACT
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vol.187(2004年2月13日発行)
【杉山 茂】看板超えパフォーマンスとテレビ中継
【佐藤次郎】2人の27歳に乾杯
【早瀬利之】男子プロ界、「PGAツアー」にもどって、再スタートすべし
【岡崎満義】スポーツにおける「心技体」とは?
vol.186 2004年2月4日号「名称よりも中味・・・」
vol.185 2004年1月28日号「トップリーグ初代王者」
vol.184 2004年1月21日号「日本女子バスケットボールの快挙」
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看板越えパフォーマンスとテレビ中継
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 ゴールをあげた選手が歓喜を爆発させる。その興奮が観衆の熱狂をいっそうふくらまさせる。サッカーでいちばん魅力にあふれたシーン、と云ってもよい。

 だが、“その場所”がピッチを取り囲む広告看板を越えて、となると、イエローカードが掲げられる。なんと無粋(ぶすい)な、と思って見てきたが、日本サッカー協会もさすがに気づいたかこの規定を緩めることにした(2月9日)。結構な話、である。

 時間かせぎ、サポーターへの扇動、挑発などと見られた場合や、観客との“接触”といった行為には、これまでどおりの警告となるが、楽しさが戻った、のは間違いない。外国リーグでは、かなり前からこの規定は廃止されていた、という。

 さて、このシーン、次の無粋の心配はテレビ中継のカメラワークだ。サッカーに限らず、最近はビデオテープ再生の多重化で、せっかくの"ナマの絵"が封じられるケースが目につく。
角度を変えただけの、せわしない再生の連続より、はるかに競技場の選手の姿や表情のほうが、訴えるものが多いのに、だ。

 ビデオ再生を売りものにしている本場のアメリカンフットボール(NFL)中継は、選手の喜怒哀楽のアクションは大切にする。テレビならではの再生武器に振りまわされず、優先して送り出す映像の効果の計算が巧みにはじかれ、臨場感を高める。

 看板越えの“時間”を、ビデオ再生に当てられては、改善も空しい。一方で、このパフォーマンスにふさわしいゴールは、いつもいつも刻されるものではあるまい。
それだけの価値、と判断するのは選手のセンスということになる。

 見せる、見る、伝える。これらの質が高まりあってこそ、現代のスポーツは、支持を得られるのではないか−。

2人の27歳に乾杯
(佐藤 次郎/スポーツライター)

 8日に行われた東京国際マラソンは、なかなか味わい深い結果で終わった。優勝はダニエル・ジェンガ。日本人最高の2位に入ってアテネ五輪代表候補に名乗りを上げたのは大崎悟史。ともに27歳の2人は、他の有力選手とはちょっと違ったキャリアや魅力を持つランナーだったのである。
 
 高校時代から日本で暮らしてきたジェンガは、素朴な一途さを感じさせる選手だ。仙台育英高、流通経済大をへてヤクルトで活躍するケニア人ランナー。十代の半ばで、生活習慣も文化もまったく違う国にやって来て13年を過ごし、ここまで着実に進歩してきた足どりからは、並でない努力の深さが伝わってくる。
 
 競技にも、また学生時代の勉強にも、常に真っ正面から取り組んできた生真面目さ。一歩一歩の歩みをひたすら積み重ねていく篤実さ。このケニアの若者は、いまの日本社会では希薄になってしまったものを持ち合わせている。折り目正しく、かつ正確な日本語はその象徴かもしれない。
 
 かつてシカゴで出した世界歴代7位のベストタイムに加えて、この優勝でケニアの五輪代表に大きく前進した。優勝の栄冠にも、陸上大国の五輪代表にもふさわしい存在に、13年の日本暮らしで成長したのである。地味なタイプで、今回の優勝も新聞などでは小さくしか扱われなかったが、これまでの努力の重さを考えれば、この勝利もまたたいへんに重いものと言うべきだ。
 
 一方、果敢な走りで後半のレースをリードして、わずか3秒差で2位になった大崎は、サラリーマン・ランナーの殊勲として翌日のメディアに大きく取り上げられた。山梨学院大時代には箱根駅伝の区間賞を取るほどの実績を残したが、NTT西日本に入ってからは勤務が終わった後の練習だけで競技活動を続けてきたのである。この大健闘も大いに意味あるものと言えるだろう。恵まれた環境でプロ的に活動するエリート選手でなければ世界に通じる活躍はできないとする最近のスポーツ界の流れに、とりあえず待ったをかけてみせるものだったからだ。
 
 確かにいまの競技スポーツは、どの種目でもフルタイムの取り組みがなければ好成績は残せない状況になっている。それだけレベルが上がっているのは間違いない。ただ、実業団スポーツがこれだけ衰退している時代とあっては、恵まれたプロ的環境を誰もが持つのは不可能だ。そんな中での大崎の快走には、もうひとつの選択肢と可能性を具体的に示したものとして、タイムや順位以上の価値がある。
 
 さらに彼のレースぶりを印象的にしたのは、30キロでペースメーカーが離れてからの積極的な飛び出しである。前にもこのコラムで触れたが、現在のマラソンというものは、いかに自分の力をストレートに出し尽くすかの勝負なのだ。代表選考レースだからといって、他の選手の出方を気にしたり、牽制や駆け引きばかりを考えているようでは、けっしていい結果は生まれないのである。
 
 その意味で、ためらわずにペースアップした大崎の判断は正しかったと思う。終盤の上り坂で大幅にペースが落ちはしたが、あの飛び出しがなければ2時間8分台には届かなかっただろう。競技に専念できる環境にいながら、大目標のレースでふがいない走りとタイムに終わった有力選手たちは、精神的な面でもサラリーマン・ランナーに負けていたというわけだ。
 
 男子も女子も代表選考レースはあとひとつとなった。選手たちは自分との勝負に徹して、持っている力を出し尽くしてもらいたい。駆け引きや牽制にばかりこだわる走りをしているようでは、たとえ五輪に出たとしても好成績などは望みようもないからだ。

男子プロ界、「PGAツアー」に戻って、再スタートすべし
(早瀬 利之/作家)

 日本の男子プロ界は「PGAツアー」か「ジャパンゴルフツアー」かで、議論されはじめた。もともと日本プロゴルフ協会は、「PGAツアー」だった。5年前に、ツアー機構が生れて「ジャパンゴルフツアー」になったわけだが、原因は、ツアーで戦う選手達の意見が採用されず、クーデターのような形で独立し、運営してきた。
 
 ところが、不況下で、スポンサー離れが起き「当初の効果なし」ということで、イイヤマがスポンサーから下り、スター不在、視聴率ダウンと、目も当てられない状況になった。
そこで、元の「PGAツアー」に戻し、運営はそのまま、ゴルフツアー機構が独立した形で運営する案が持ち上がっている。

 この背景には、分離独立しなかった日本女子プロ協会のツアー制度の成功がある。ゴタゴタなしで、一本化のまま運営されている。また新人プロも宮里藍、上原彩子のように、ツアープロになり、人気を上げた例もある。

 不況下では、一本化して足場を固め、業界に元気を取り戻す必要があるが、残念ながら個人の集団故のわがままがあり、大局を見失う人も多い。ここはPGAツアーに戻り、ツアー機構が運営する方法を望む。

スポーツにおける「心技体」とは?
(岡崎 満義/ジャーナリスト)

 作家の椎名誠さんが“不良横綱”朝青龍擁護論を書いている。(週刊文春2月12日号)

 「横綱は『心・技・体』のバランスがきちんとしていなければいけない。すなわち、社会や子供たちの規範となるよう正しい行動、正しい発言、正しい生活姿勢でいるべきである。だからそれができない朝青龍には引退勧告すべきだ、なんていうことを横審のメンバーが本気で言っているらしいと知ってまたもやびっくりし、同時に笑いたくなってしまった」

 モンゴルに何度も行って、すっかりモンゴル通になった椎名さんは、モンゴル相撲にもくわしいから「日本の相撲組織の偉い人が気に入らないという朝青龍の『きてみろこのやろう!』といわんばかりの仕切り前の顔も、勝ったときのガッツポーズなどもモンゴルの弱肉強食スポーツでは当然の顔なのである。しかも今場所など朝青龍のそうした気合の入った顔と体は実にきっぱりと充実していて、五月人形か博多人形を見るようだった」と評価する。

 私は朝青龍が横綱になったとき、若くして亡くなった横綱玉の海のような、小柄ながらどっしりと安定感のある横綱になるのではないか、と期待したので、椎名さんの朝青龍擁護論に賛成する。朝青龍が、旭鷲山のマゲをつかんで反則負けになったり、土俵の外でも"先輩"旭鷲山に礼を失したふるまいがあった、というような行動とともに、初稽古を無断で休んだ、モンゴル帰国時にスーツを着ていた、先代親方の葬儀に欠席した、と批判された。しかし、言ってみれば、“発展途上国”的な若い横綱なのだから、この程度のことはそのたびに口頭で注意すればすむことだろう。心技体の「心」に欠ける、というほどのことではあるまい。

 第一、スポーツにおける「心技体」でいう「心」は、品行方正であることとイコールではない。そんなことは結果論の切れっ端のような些細なことだ。力士はあくまで勝つために体を鍛え、技を磨いているわけで、品行方正紳士になるために、そうしているのではない。

 すぐれたスポーツアスリートを見る喜びとは、まさに彼らの「心技体」に触れた(と思える瞬間に出会う)ことだ。どんなスポーツにも「心技体」はあるのだが、ハダカ一貫の相撲が「技」と「体」はもっとも見えやすい。ツヤがあり、ハリのある体、切れ味鋭い技は、素人にもそれなりに分かる。

 しかし「心」は見えにくい。見ようとして見えるものでもない。心は風のようなものだ。風そのものは目に見えないが、木の葉を鳴らし、揺らすことで、風が感じられるように、心も、心そのものを見ることはできない。鍛えた体と磨き上げた技をもつ力士が、立上がる前の仕切りのときに、ぶつかりあった瞬間に、技が決ったときに、その汗の筋肉や紅潮した表情に一瞬かすめる「心」の表出が見える―それこそがスポーツの醍醐味なのである。

 心理は読み解くことはできるだろう。しかし「心」はモノとして、ただ感ずる以外に、その存在を知ることはできない。スポーツアスリートだけではなく、フツーの人も「心」をもっている。それなのに、「心」をモノとして感ずることは、滅多にあるわけではない。「心」は「技」と「体」とのつながりの中にしか、顔を見せてくれない。

 力士の「心技体」に幸運にも出合うとき、フツーの人間にとっての「心技体」にも思いをめぐらすことができる。それは人生の幸福のひとつだ。「心技体」は品行方正のお利口さんになるためのものではないのだ。



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