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100号記念メッセージ

■vol.134 (2003年2月19日発行)

【杉山 茂】「A3カップ」に関心が集まれば・・・
【賀茂美則】ミラーの中日移籍騒動に思う(その2)
【早瀬利之】タイガー・ウッズまずまずの復活
【今城力夫】同じ土俵でプレイすることが男女平等なのか
【中村敏雄】異議の申し立て


◇「A3カップ」に関心が集まれば・・・
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

東京で東アジア3カ国のリーグチャンピオンによる新しいサッカーイベント「A3チャンピオンズカップ」が行われている。

第1日(2月16日・国立競技場)は、時折雪のおちる寒さにも拘らず、第1試合(ジュビロ磐田−韓国・城南一和)20,793人、第2試合(鹿島アントラーズ―中国・大連実徳)23,907人の観客、サポーターが集まった。天候さえよければ「もっと」と思わせる入りで、アジアや、東アジアのスポ−ツに対する興味が、このような形で拡がっていくのなら、と新しい期待を抱かせた。

日本のスポーツ界は、アジアを素通りにしてしまい、アメリカやヨーロッパへ"直結"しすぎてきた。

アジア大会やアジア選手権を比較的楽に勝ち抜けた時代が長く、それがアジア相手のイベントとなると盛り上がらない一因にもなった。

だが、あらゆるスポーツで、アジアからはこれまで素晴らしい競技者やチームが生まれ、世界トップクラスの力を示していた。最近では、全米プロバスケットボール(NBA)のヒューストン・ロケッツで活躍する姚明が大人気だが、中国バスケットボール界の、層の厚さ、質の高さは、内外で定評があった。それにも拘らず、日本で、同国の動きは、ほとんど話題にならず、姚明は、突然生まれたように扱われてしまう。

かつての、フィリピンやタイのプロボクシング、フィリピンやインドのテニス、インドやパキスタンのホッケー、近年ではマレーシアのバトミントン、韓国の女子ハンドボールとショートトラック、中国の女子ソフトボール、伝統的な中国の卓球・・・。アジアのスポーツは、充分見応えのある"コンテンツ"である。

「A3チャンピオンズカップ」が成功すれば実現を目指しているアイスホッケーの「国際リーグ」、ハンドボールの「東アジアリーグ」などの展望も開けてこよう。(極東)

「A3」へのもう1つの期待は"選手のマーケット"の拡充である。

ベースボールでは、日本人を含めたアジア系選手の往来が、活発になり始めているが、サッカーをはじめ、多くのスポーツでこの動きが促されていい。

活動を望んで来日をする選手は多いが、日本側から新転地を求めて旅立つケースは、まだ少ない。

中国や韓国の経済的、社会的発展を聞くにつけ、見るにつけ、スポーツ界もアジアや東アジアへの関心を関係者、ファン、メディアを含めて高めなければ、日本は取り残されるだろう―。

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◇ミラーの中日移籍騒動に思う(その2)
(賀茂美則/スポーツライター:ルイジアナ発)

まさに恐れていたことが起こった。ミラーの中日移籍騒動の顛末である。
 
中日がミラーに関する権利を放棄し、ミラーは望み通りレッドソックスに移籍することになった。
 
大リーグの公式ホームページによれば、ミラーが所属していたマーリンズはレッドソックスから約1億8000万円を受け取り、中日が払った約1億4400万円を中日に返還するという。毎日新聞によれば、さらにミラー側は中日に「公式の陳謝」をするというが、この部分は大リーグのホームページには見当たらない。
 
良く考えて見てほしい。今回の騒動で誰が得し、誰が損したかを。

マーリンズはもともと、ミラーに1億4400万円の価値しか認めていなかったのである。ミラーという「商品」はその値段で中日に譲渡されたのである。

その後、レッドソックスはミラーにそれ以上の価値を認めたのであるが、その時点でミラーという「商品」を所有していたのは中日である。1億8000万円は中日に支払われるのが当然である。

中日が差額を不当に儲けることになるという指摘は当らない。経済行為ではものの値段が急に上下することは日常茶飯だし、中日がミラー獲得にかけた費用はすべて持ち出しなのだ。何よりも一方的に契約を破棄され、補強のあてがはずれた分の損害を考えたら、差額をもらっても足りないくらいなのだ。

2月15日の時点で、中日に支払われる金額は1億4400万円と1億8000万円の間、と報道されていた。公式に発表される以前、マスコミ関係者にしても中日に違約金が支払われて当然と考えていたからである。

「大リーグの選手会が中日の対応に不満を表し、日本で予定されている大リーグの開幕戦を返上する可能性をほのめかした」という報道があった。こういうのを英語で「ブラフ(こけおどし)」と言う。

中日とミラーの問題に無関係な開幕戦を返上したら、契約違反で訴えればいい。大リーグ選手会はそんなことは百も承知で、返上など最初から考えていない。

雑談に近い談話を取り上げ、情報戦に負けてしまう日本のマスコミも何もわかっていない。著者が調べた限り、シアトルの弱小夕刊専門紙以外にこの「懸念」を取り上げたアメリカのマスコミは他にないのだ。

全く、どこまでお人好しを演じれば気がすむのだろうか。たなぼたで差額の3600万円が転がり込んだマーリンズは中日の愚鈍さに笑いをかみ殺しているはずだ。さすがに気がとがめたのか、この差額は球団の持っている慈善団体に寄付するという。「本来もらう金ではない」というのを認めているのだ。それでも税金の控除があるので、正味で約1000万円が転がり込んできたことになる。

ミラーはいわゆる「ゴネ得」である。「公式な陳謝」など、弁護士が適当に書いて、ミラーは何も読まずにサインするだけだ。痛くも痒くもない。レッドソックスにしても、ミラーに1億8000万円の価値があると思っているのだから損はしていない。

唯一、中日だけが「補強の目玉」をさらわれ、余計な出費を強いられ、赤恥をかいた上に一銭の得もしていないという構図である。何の意味もない「公式な陳謝」をもらうことで体面を繕ったつもりなのだろうか。球団付きの弁護士は一体何をしていたのか。全くのアホである。

中日が、「事を荒立てずに、丸く収めよう」と考えたのだとしたら、ぼけているとしか言いようがない。「事を荒立てた」のはミラーなのだ。大リーグは今後、間違っても、「ミラーの件で中日には可哀想なことをしたから、今回は便宜を図ってやろう」などとは考えない。その逆である。

今後も大リーグは中日をナメ、日本のプロ野球をナメてかかるに違いない。アメリカとはそういう国だし、国際社会とはそういうものだ。そのルールでプレイできないのなら、中日も日本のプロ野球もずっとお人好しを演じ続け、損をし続けるだけなのである。

本当に情けない。

【賀茂美則】ミラーの中日移籍騒動に思う

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◇タイガー・ウッズまずまずの復活
(早瀬利之/作家)

タイガー・ウッズが今季初優勝して、35勝目をあげた。

タイガーは昨年の秋に痛めた左膝を、12月のオフ・シーズンで手術し、その後リハビリを続けていた。アメリカは外科手術が進んでいて、特にスポーツ医学分野では眼を見張るどころか、感動させられる。

プロスポーツ界がリッチで手術費も高額を払えるからである。それだけに、新しい技術・機材が充実している。

いい意味で、この世界は、相乗効果を上げている。そのこともあり、タイガーの復帰は近いと楽観していた。

今回の「ビュイック招待」は、タイガーの契約スポンサーである。多少悪くても出場しなければいけない立場にあった。

しかし、「出場したからにはいい試合を見せなければならない」というプレッシャーがある。悪コンディションでもあったが、初日、2日と出遅れたのは、ヒザの快復具合、特にプレッシャーを受けたときの左膝にかかる重圧をどう克服できるか、気がかりだったと思う。

アイアンショットは完璧だったが、ドライバーショットは相変わらず右・左へとブレていた。長いものほどミスショットの誤差が多いわけだから、もっと距離を落として方向性重視のスウィングに変えるべきである。

それにはトップの位置をあと5センチ低くすれば良いのだが、これは本人の心がけひとつ。契約クラブメーカーのため、無理して飛ばしたいのだろう。それが裏目に出ている。

初戦は4月のマスターズに向けての序盤戦。まだ左膝に不安が残っているだけに、マスターズ連覇は楽観できない。

それでも今回、4日間でボギーが4つにとどまったことは本人が言うまでもなく、上出来である。

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◇同じ土俵でプレイすることが男女平等なのか
(今城力夫/フォトジャーナリスト)

女子プロゴルフ界で活躍するスウェーデンのアニカ・ソレンタムが5月にフォートワースのコロニアルCCで行われる米国男子プロゴルフツアー(PGA)バンク・オブ・アメリカ・コロニアルに出場することが決まった。

一方、スージー・ウェイリー(米国)も7月に行われるグレイター・ハートフォード・オープン(於リーバー・ハイライズTPC)に女性として初参戦が先に決定している。女性とは言え、上位に位置している選手たちはレベルも高いし、ゴルフは身体を触れ合ってプレイする競技でもないので面白い試みかもしれない。

しかし、男女の区別を全廃しないのなら、今後とも少数の上位招待選手のみに止めておかないと、本来のPGAのレベル低下に繋がったりし、観戦する側の目的やピントがずれて、却って興味が薄れてしまうかもしれない。ソレンタムはインタビューに対して"賢くプレイする"と言ったそうだが、これはどういう意味なのだろうか。男性の中で攻撃性を欠いた安全プレイにならないことを願いたい。

ところで、グランドスラムの一つでもあるマスターズの行われるオーガスタ・ナショナルGCでは女性受け入れ問題で揺れている。

私は一部に男性会員専用或いは女性会員のみのクラブがあってもかまわないと思うし、大袈裟に取り上げるものでもないような気がする。まして、件のゴルフクラブはプライベイト・クラブでもあり、女性がプレイ出来ないわけでもない。只、女性会員を認めていないだけなのだ。

一部存在しているそうだが、それこそ女性会員のみのゴルフクラブを作ってはどうか。アメリカのゴルフ界に詳しい友人のゴルフジャーナリストの話では「男性会員のみのゴルフクラブが出来たのは、女性を排除する目的よりも寧ろ男性の逃げ場だったのですよ」とのことだ。然もありなん。表面的であれ女性上位を毎日演技して疲れた男たちの"逃げ場"だったのかも知れない。

どういう訳か、このようなことにも一部のNGOが現れて喚いているようだが、以前にアメリカで起こった公民権運動が必要以上にエスカレートして、何でも権利主張をして行ったのに似ているような気がする。我が国でも女性国会議員の先生が同一内容でゴルフ場を非難したことがあった。

相撲の優勝杯を授与するのに女性も土俵に上がらせろ、との意見もある。相撲は女性が出血することから(神聖な場所が)"汚れる"という考え方が昔あったことに原因しているのだが、もっと大事な仕事にエネルギーを使ってもらいたいものだ。

ところで、最近、終戦直後の"婦人子供専用車"に似た"女性専用車両"なるものが出来てきたが、痴漢と偽って金を揺する女性を隔離するには良いアイディアかも知れない。

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◇異議の申し立て
(中村敏雄/元広島大学教授)

1月26日に行われた大阪国際女子マラソンは、上位を日本の3選手が占め、しかも、優勝した野口選手は高橋直子選手に続く歴代2位の記録を出し、選手層の厚さを考えれば新記録の樹立も遠くはないと思わせた。

しかし、そのためのトレーニングは「昨年11月から約50日間の昆明合宿で1200キロ走った」という苛酷なもので、これは1日おきにマラソンレースに出場したというのに等しく、彼女らに続く選手はこれ以上のトレーニングをしなければならないということになる。

オリンピック・シドニー大会の直前に開かれた日本スポーツ学会で佐々木秀幸早大教授は、犬伏孝行選手の「’99ベルリンマラソン前5週間の走行距離(の図)」を配布して彼のトレーニング・メニューの解説をしたが、それは素人が見ても野口選手に負けないほどハードなものであった。

そして、これらの事実は、今日のスポーツがマラソンだけでなく、その他の種目も、そのトレーニングが非人間的と表現することを躊躇する必要がないほど苛酷になってきているということを推測させ、われわれはなぜスポーツがこのように非人間的な存在になったのかということを明らかにしなければならなくなっている。

わが国はスポーツの輸入国であったため、これの大衆への普及と欧米に追いつき追い越せという二つの課題を同時に追求しなければならず、少なくとも昭和時代までこれは国民すべてに支持されてきたといってよい。

ところが、時代が平成に移る頃から、これへの疑義が提出されるようになった。

その具体例は、中・高校生の「部活動離れ」で、しかも、少人数化しつつあるこの部活動が、さらにプロ志向派とアマ維持派に両極分解し、このプロ志向派の中で深刻な「落ちこぼれ」「いじめ」問題が起こっており、それは「リトルリーグくずれ」の少年がいるクラス担任教師に話を聞けばすぐにわかることである。

これらが、それをはっきりと自覚しているかどうかはともかくとして、人びとが昭和時代まで信じてきたスポーツの意義や価値に対する「異議申し立て」の諸相であることは明らかで、それは「なぜ100メートルを15秒で走れるようにならなければならないのか」という彼らの問に大人たちが答えられなかったことに問題があった。

「うちの母親は小学生時代に逆上がりができたらしいが、今はできない。私も同じだろうと思う。なのに、今逆上がりができなければならないのはなぜか」。この問に大人たちは答えなければならないが、今日の若者はその答えに満足しなくなっているし、自己欺瞞的な胡散臭さを感じるようにもなっている。

また、彼らはトップレベルに到達した選手が、なぜ庶民とはケタ違いの数億円という年間収入を手にできるのかということに、その対極にホームレスやリストラで自死する人たちを置いて疑問を呈している。本来の遊びであったものが、なぜこのような物質的利益を獲得する手段になったのか。自由競争と平等の不均衡をさらに過大化しているのは誰か、それはなぜか、などを彼らは知りたいと思っている。

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