まさに恐れていたことが起こった。ミラーの中日移籍騒動の顛末である。 中日がミラーに関する権利を放棄し、ミラーは望み通りレッドソックスに移籍することになった。
大リーグの公式ホームページによれば、ミラーが所属していたマーリンズはレッドソックスから約1億8000万円を受け取り、中日が払った約1億4400万円を中日に返還するという。毎日新聞によれば、さらにミラー側は中日に「公式の陳謝」をするというが、この部分は大リーグのホームページには見当たらない。
良く考えて見てほしい。今回の騒動で誰が得し、誰が損したかを。 マーリンズはもともと、ミラーに1億4400万円の価値しか認めていなかったのである。ミラーという「商品」はその値段で中日に譲渡されたのである。 その後、レッドソックスはミラーにそれ以上の価値を認めたのであるが、その時点でミラーという「商品」を所有していたのは中日である。1億8000万円は中日に支払われるのが当然である。 中日が差額を不当に儲けることになるという指摘は当らない。経済行為ではものの値段が急に上下することは日常茶飯だし、中日がミラー獲得にかけた費用はすべて持ち出しなのだ。何よりも一方的に契約を破棄され、補強のあてがはずれた分の損害を考えたら、差額をもらっても足りないくらいなのだ。 2月15日の時点で、中日に支払われる金額は1億4400万円と1億8000万円の間、と報道されていた。公式に発表される以前、マスコミ関係者にしても中日に違約金が支払われて当然と考えていたからである。 「大リーグの選手会が中日の対応に不満を表し、日本で予定されている大リーグの開幕戦を返上する可能性をほのめかした」という報道があった。こういうのを英語で「ブラフ(こけおどし)」と言う。 中日とミラーの問題に無関係な開幕戦を返上したら、契約違反で訴えればいい。大リーグ選手会はそんなことは百も承知で、返上など最初から考えていない。 雑談に近い談話を取り上げ、情報戦に負けてしまう日本のマスコミも何もわかっていない。著者が調べた限り、シアトルの弱小夕刊専門紙以外にこの「懸念」を取り上げたアメリカのマスコミは他にないのだ。 全く、どこまでお人好しを演じれば気がすむのだろうか。たなぼたで差額の3600万円が転がり込んだマーリンズは中日の愚鈍さに笑いをかみ殺しているはずだ。さすがに気がとがめたのか、この差額は球団の持っている慈善団体に寄付するという。「本来もらう金ではない」というのを認めているのだ。それでも税金の控除があるので、正味で約1000万円が転がり込んできたことになる。 ミラーはいわゆる「ゴネ得」である。「公式な陳謝」など、弁護士が適当に書いて、ミラーは何も読まずにサインするだけだ。痛くも痒くもない。レッドソックスにしても、ミラーに1億8000万円の価値があると思っているのだから損はしていない。 唯一、中日だけが「補強の目玉」をさらわれ、余計な出費を強いられ、赤恥をかいた上に一銭の得もしていないという構図である。何の意味もない「公式な陳謝」をもらうことで体面を繕ったつもりなのだろうか。球団付きの弁護士は一体何をしていたのか。全くのアホである。 中日が、「事を荒立てずに、丸く収めよう」と考えたのだとしたら、ぼけているとしか言いようがない。「事を荒立てた」のはミラーなのだ。大リーグは今後、間違っても、「ミラーの件で中日には可哀想なことをしたから、今回は便宜を図ってやろう」などとは考えない。その逆である。 今後も大リーグは中日をナメ、日本のプロ野球をナメてかかるに違いない。アメリカとはそういう国だし、国際社会とはそういうものだ。そのルールでプレイできないのなら、中日も日本のプロ野球もずっとお人好しを演じ続け、損をし続けるだけなのである。 本当に情けない。 【賀茂美則】ミラーの中日移籍騒動に思う |