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100号記念メッセージ

■vol.135 (2003年2月26日発行)

【杉山 茂】女性役員選任の積極化を
【早瀬利之】故意か偶然か、選手を狂わせるケイタイ電話
【中村敏雄】『東洋の魔女が生んだ沈黙』


◇女性役員選任の積極化を
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

今春は、国内スポーツ団体の役員改選期にあたる。一頃よりは、各団体とも成熟したのか、大人(おとな)気ない"争い"は影をひそめている。日本体育協会(体協)、日本オリンピック委員会(JOC)も3月第4週に会長以下が改選されるが、波乱は感じられない。今月末から平穏に調整が進むだろう。

今回、注目したいのは、女性理事がどこまで"進出"するかだ。

現体制では、体協、JOCとも理事、監事各1人づつしか選任されていない(JOC理事をつとめられた人は、1月に他界され空席)。両組織とも、女性役員の数が定められているわけではないが、この時代、あまりにも、この面への意識が低い。体協は、女性会長を迎えた時期(1993〜95)があり、画期的と評価されたが、1期で終った。

国際的には、1994年、イギリスで開かれた第1回世界女性スポーツ会議で「スポーツの組織のリーダーシップや意思決定の場に女性のコーチ、アドバイザー、意志決定者、役員などを増やす政策やプログラムを作り、そのような組織(機構)をデザインしなければならない」と決議、会議の開かれた地名を採って「ブライトン宣言」と呼ばれている。

この「宣言」は、スポーツ関係団体に対して、役員の割合を、2005年までに20%となるよう、具体的な数値を目標として、掲げてもいる。JOCも、この「宣言」を批准しており、今春の改選で、どのような線が打ち出されるか、大きな興味だ。

これは、JOCだけに留まらない。体協をはじめ、あらゆるスポーツ団体が、中央、地方を問わず、促進されなければならぬテーマである。

スポーツ施策のミーティングに、女性の登用は、確実に増えている印象はあるが、体協やJOCが率先しなければ、過去の流れに新しさを汲み入れるのは難しかろう。

スポーツ団体の役員を名誉職的にとらえる時代は、とうに終っている。

あすの日本のスポーツをたくましく照らし出すために、若々しい"働ける人材"が、女性を含め、どっと選任されることを期待していよう。

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◇故意か偶然か、選手を狂わせるケイタイ電話
(早瀬利之/作家)

タイガー・ウッズが、またまたケイタイ電話にやられた。

またまたというのは、これが5、6回とか10回といった程度ではないからである。彼の近くにいると何度も電話の音がして、中断することがしばしばだった。

中断して済むなら何も苦労はしない。また、いつ、どこでやられるか、その不安がつきまとうため、一日中脅えることになる。ヒットマンに脅える心境に近い。

日本でもそうだが、アメリカのギャラリーは、最悪のマナーだと、イギリスのプロがコメントしていたが、このところ、特にひどい。裸で日光浴を楽しむ光景や、選手がアドレスに入っているのに彼女と喋りながら近くを通る若者がいたりで、選手も落ち着かない。

これは、賞金が高額になったツケというものである。西海岸のフェニックスオープンでは、信じられないだろうが、30万人のギャラリー(延べ)である。町中がギャラリーと思っていいほどの人気である。それほど入るギャラリーを整理するのは不可能である。

ケイタイ電話に次いで脅える音は、缶ビール。缶を切る音は、ショット、パットのタイミングを狂わせる。遠く100ヤード離れていても聞こえる。

人間の声は一時的なもので、しかも連続性があるから、さほど気にはならない。いつかは泣き止んでくれるという安心があるからだ。しかし、缶ビールの栓抜きやケイタイ電話は、なんともならない。

テレビ生中継の功罪もある。意図的に、タイガー潰しをするため、テレビを見ている一方が、グリーンサイドの人間にケイタイをかけ、故意に仕掛けていることも考えられる。タイガーはナーバスな気持ちを15秒以内に忘れるメンタルトレーニングをしているが、「またやられる」という脅えは、消しがたい。

これも、テレビが生んだ皮肉なツケである。

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◇『東洋の魔女が生んだ沈黙』
(中村敏雄/元広島大学教授)

2月になってNHKはテレビ放送50周年記念番組を放映し始めた。

この中にはスポーツ番組もあり、2月5日は解説者に二宮清純氏、司会に岡本、久保アナウンサー、タレントの伊集院光、上原さくらの両氏という構成で、いつものように力道山から始まって栃若の大相撲、若い長嶋、王選手と東洋の魔女から円谷幸吉選手へと、「○○がこのようにありました」式の映像が流され、二宮氏がその解説を行った。

若いタレントを出演させるという事はシビアな討論をしませんという局側の意思表示である。この時の二人もソツなくその役割を果たしていたが、突然そこに意図せざる沈黙の一瞬が出現した。

それは、途中から登場した二人の東洋の魔女に伊集院氏が行った「欧米の選手に比べて体格、体力で劣る日本チームがなぜ勝利したのですか」という問いに「精神力です」と答えたのが原因だった。

その答えは、魔女以外の人たちが全く予想していなかったもので、しかも、シビアな討論をしないという流れと雰囲気に背くものでもあったため、そこに一瞬の絶句、沈黙という状況が出現したのである。

二人の司会者は、ここで「精神力」をめぐる意見交換をするべきかどうか、それがレンズの向うにいる視聴者の、とくに若い人たちの期待に答えるものかどうかなどを瞬時に判断しなければならなかった。

一瞬の後、彼らはさりげなくこれを回避した。それは「精神力」の強弱高低を測定、比較する資料も条件もなく、優勝を争ったソビエトチームの「精神力」が日本チームのそれより弱かったと判断する材料もなかったからである。

恐らく、これについて意見交換すれば、魔女たちの根性主義が明らかになるだけでなく、それを今も講演等で説いているであろうことの意図、意味、反応なども話題になるという判断もあったであろう。

考えてみると、これは魔女たちが金メダルをぶら下げたまま引退したことと関係があるように思われる。

別言すれば、彼女らはこれ以後に敗戦経験がなく、それがその他の敗戦経験を持つ選手、例えば、荻原健司、堀井学、伊達公子などの選手と、考え方や態度の相異を生む原因ではないかと思われる。それを荻原選手は、「清水選手がクールといわれるのは、いつも自分の内面と向き合っているからだろう」と述べている。

東洋の魔女はわが国が経済大国へ登り始めていく時の国民総合のシンボルとして利用された。そのために「精神力」と答えなければならなかったのだろうが、それが今は人びとを沈黙させる役割を持ち始めている。

このギャップに気付くことはないのかも知れないが・・・。

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