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vol.207(2004年7月 7日発行)

【杉山 茂】「続・近鉄+オリックス問題」背景にのぞけぬ地域の姿
【高田実彦】プロ野球の危機は、合併などではなく前時代的な組織にある
【岡崎満義】日本で「地域権」は成立するか
―近鉄・オリックス合併問題をめぐって―

 

筆者プロフィール

vol.206 2004年6月30日号「次の合併・・・」
vol.205 2004年6月23日号「近鉄+オリックス 問題」
vol.204 2004年6月16日号「近鉄を潰したのは・・・」
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「続・近鉄+オリックス問題」
背景にのぞけぬ地域の姿
杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 ベースボール界は、明らかに試されている。「近鉄+オリックス」問題は、内部では、意見の集約へ進んでいるかに見受けられるが、対外的な“説明”の幼稚さは、この世界のレベルをさらけ出す以外の何ものでもない。

 これが、国民娯楽を自賛してやまないプロ・ベースボールの正体だったのだ。ファン不在、地域不在、そして新しい目算も立てず「1リーグ」を連呼する姿…。

 改めて、プロ・ベースボールが、地域に根付いていないことが、一番の驚きだった。「ダブル・フランチャイズ」なるものが確保されつつあるだけで、お茶をにごす話ではない。

 我が市(まち)から、プロ野球球団が居なくなる、という現実に、驚きも、悲しみも、寂しさも、まったく沸き上がってこない。

 バファローズは、鉄道会社のモノで、大阪という大都市の“ランドマーク”には、なり得ていなかった。

 大阪府や市も、「大阪ドーム」の経営への影響に顔色を変えるばかりではなく、880万人都市からプロ野球球団が姿を消す事態を、深刻に受け止めるべきではないか。残留、継続の策に額を寄せ合うべきではないのか。

 もっとも、たまたま、今回の一件で批判の矢が一斉に放たれたが、古くからあらゆる面で「地域性」の拡充を望まれながら、球団側は熱意を傾けなかった。「大阪」ばかりを責められない。ユニホームの胸に「東京」を縫いつけている球団もないのだ。

 仮に、オーナーたちが望んでやまない1リーグ制になったところで、各球団が、自立した経営に本気で取り組み、地域密着を図らなければ、“新体制”さえも、近い日に崩れ果てよう。
この際、ベースボール界の“一本化”も望まれる。少年・高校・学生・社会人・プロ。この世界ほど、輪切り状態なスポーツ組織は見当たらない。

 「高校野球」は、まるで独立したスポーツでベースボールの「高校部門」という感覚が乏しい。

 プロが、次代の興行の温床視することに、表面上は嫌悪を露わにし、交流を避けてもきた。アマチュア球界はどれほどクリーンだったのか。

 あるオリンピックで、プロ野球人として実績を持つ方に、ベースボール中継(テレビ)のゲストをお願いしたところ、“アマチュア”側の解説者周辺から「プロとの同席は好ましくない」との連絡を受けたことがある。

 オリンピックに、プロもアマも壁のなくなった時代で、この姿だ。

 テレビ視聴率が下降線とはいえ、毎日のように番組を編成できるスポーツは、まだベースボール(プロ)意外に育っていない。

 「近鉄+オリックス」問題には、ベースボール界、ベースボール人の誇りがあまり感じられないのは情けない。

 ベースボール界全体の課題として捉えなければ、今回の騒ぎは空しいだけだ・・・。

プロ野球の危機は、合併などではなく前時代的な組織にある
高田 実彦/スポーツジャーナリスト)

 今回のプロ野球の混乱ぶりをみるにつけ、プロ野球の先行きが思いやられる。

 いまプロ野球界を仕切っているのは、天皇・ドン・独裁者などの異名を持つ渡辺恒雄オーナーである。この人が“不死身”ならそれなりの見通しが立つが、もうすぐ80歳のご老体である。

 プロ野球のコミッショナーは、プロ野球内部の「首相」で「最高裁所長官」である。このコミッショナーの元に実行委員会というのがあり、これが野球協約には最高機関とあるから「国会」や「裁判所」にあたる。

 しかし、最高というのは名ばかりで、重要案件は「オーナー会議」で承認されなければならないことになっている。最高機関の上にオーナー会議があり、実行委員会は、よくて参議院並みである。

 したがって、内部の小さな問題は実行委員会からコミッショナーのところで処理されるが、球団の存廃・合併というような大問題は、オーナー会議に決定権があることになる。

 その最大の決定機関のいまの実力者が巨人の渡辺オーナーなのだから、同オーナーは、コミッショナーの上に君臨している「大統領」ということになる。

 プロ野球は読売新聞社の正力松太郎社主(巨人のオーナー)が音頭を取ってつくったものであるから、もともと巨人がリーダーだったが、生みの親“大正力”が「プロ野球そのものの発展」を考えて施策したのに比べ、その後の巨人オーナーは「巨人の利益」を第一に考えるようになった。

 これはある意味では、企業の長なのだがら致し方ないことで、際だって“責任感”の強いのがいまのオーナーである。

 その責任感の現われは、おおむね自分に有利な制度を次々につくるところに出ていた。その主義主張は、自由競争という名の「弱肉強食の権化」であるように思われる。プロ野球は、他企業間競争と同じように闘争の世界であるから、その意味では正しいだろう。

 しかも、かつてヤクルトの故・松園尚巳オーナーがいみじくもいったように、「ヤクルトは巨人の傘の下にいるのが一番いい。だから巨人が繁栄してくれなくては困るのだ」という側面があるのは否定できない。

 その偽らざる現実が、いま各球団がこぞって「巨人戦目当て」で狂奔しているところに現われている。

 アメリカの大リーグのオーナーたちも、実は、自分の利益にきゅうきゅうとしている連中が多いという。しかしコミッショナーが「大統領」として君臨してカジ取りしているから、何とか持ちこたえてきている。その一方で「弱者救済に走りすぎて経営努力をしない球団が出てきている」という見方もある。

 日本における今後の心配は、「現大統領」の後のことである。「現大統領」がいなくなって、「オーナー会議」が右往左往するのではないか。「現大統領」は、「オレの死んだ後のことなんか、知らんよ」というしかないだろう。

 日本のプロ野球が危機的なのは、球団合併などにあるのではない。組織としてあまりにも前時代的であるというところにあるのだ。この際、このあたりにメスを入れて大構造改革をしなくては、将来が心配である。

日本で「地域権」は成立するか
―近鉄・オリックス合併問題をめぐって―
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 近鉄とオリックスの合併話が進む中で、IT系企業のライブドア社が、近鉄買収に名乗りをあげて、1リーグ制か2リーグ制かの大問題も含めて、先行きが見えにくくなってきた。

 そんな折、評論家の堺屋太一氏が持論の「知価社会」論をふまえて、プロ野球を論じている。(週刊朝日7月9日号)

 「問題の大阪近鉄バファローズにしても、年間観客動員数(ホームゲームだけで)143万人、サッカー最大のアルビレックス新潟の2倍以上」「プロ野球の存在感は、観客動員数でも報道量でも断然大きい」

 それでいて、大赤字の垂れ流しというのは、親会社の広告宣伝費にもたれかかって、しっかりした経営をしてこなかったこと、そして何よりも規格大量生産型の近代工業社会にどっぷりと浸って、1990年頃から社会の風向きが大きく変わったことに対応しきれなかったことによるという。

 つまり「客観的な品質よりも主観的な好みが優先される」知価社会が始まったことに、まったく気付いていない、というのだ。

 「アメリカでも、知価革命が進行していた80年代後半、プロ野球は経営危機に陥った。このときユベロス・コミッショナーの採った対策は、地元密着型のチームをつくって球団数を増やし、より激しい競争をさせることだった。今、日本のプロ野球がしようとしていることの逆である」

 サッカーのJリーグと違って、日本のプロ野球は地域密着の努力が足りない。地域密着、フランチャイズの徹底化こそ、危機突破の道筋だ、というのである。

 このエッセイと同じ頃、日刊スポーツに元オリックス球団代表・井篦重慶さんのユニークなコメントが載った。

 「日本球界のフランチャイズ制はもはや崩壊している。1リーグになるなら、各都市をフランチャイズにするのをやめて、全国をプロ野球機構のフランチャイズにする日本式をつくればいい。ホーム球団が売り上げを全部とるのをやめる。営業活動自体が縛られる地域権を撤廃し、フリーにすれば新しい営業形態もできる。神戸のダイエー戦では、ビジターも売り上げの何%かをとる。ダイエーも神戸でオリックス戦の切符を売る形にする」という斬新な意見だ。

 堺屋氏の意見とは正反対といえるだろう。私はあえて言うなら、井篦派である。地方の時代、地域活性化…と、色々「地方」が話題にのぼるが、そのかなりのものは「地方」のレッテルをまとってはいるが、ミニ東京化への意思が見え隠れしている。日本人はやっぱり中央=東京指向ではないか。

 広い国土、多民族、時差もあるアメリカとは、地域のあり方が違っている。狭い国土、地方の過疎高齢化、高度情報化社会の日本では、アメリカ流の地域権は成立しにくいのではないか。

 黒字球団の巨人、阪神を見れば分かるように、5万人収容できる東京ドーム、甲子園球場があって、さらに全試合をテレビ中継する仕組みが加わってこその黒字である。

 野球は5万人、サッカーは1万人が経営ベースのように思う。5万人をベースに経営できる地域は東京、阪神のほかにない。数千人から1万人の規模で経済・文化的な価値が成り立つようなシステムが出てこなければ、地域権をベースにしたプロ野球はありえないように思う。この点が解決しないかぎり、近鉄・オリックスが合併しようと、ライブドア社が買収しようと、プロ野球の危機は解消されないだろう。

 政府が大きく旗を振る市町村合併の流れなどは、まさに地域の価値を消し去ろうとしていることではなかろうか。「巨人ぶらさがり型経営」が批判されるが、国家的規模で「東京ぶらさがり型地域経営」が進められているのだから、野球界がそうなるのも無理はないといえる。

 かつて、サントリーの故・佐治敬三元社長が、いつまでたってもサントリービールのシェアが10%に到達しないのを嘆いて「いくら舌は保守的なものとはいえ、10人に1人ぐらいは、日本人にも変わり者がいると思ったんやがなあ」といったのを聞いたことがある。群れたがる日本人から、変わり者は出にくい。テレビという巨大なローラーは、全国を均一化する力は強いが、変わり者を育てるより、踏み潰すことが多い。

 現状では、日本国内だけで地域権を云々するのは現実的ではない。あくまで地域権に固執しようとするなら、東アジア、あるいはパンパシフィックまでを視野に入れる必要があるだろう。

 


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