ゴールデンウィークが過ぎるとウィンタースポーツは短いオフシーズンが終わり、厳しく長い夏の練習が始まる。ノルディックスキー3種目も、5月からチーム合宿が本格化する。 <ジャンプ>
スキージャンプは2月の世界選手権団体戦で銀メダル、個人2種目では葛西紀明が銅メダル2個を獲得した。五輪種目のなかで、やはり世界に近い種目であることはまた証明されたといえよう。 しかし世界選手権という1日勝負ではベテランの力で団体戦銀メダルを獲得したとはいえ、W杯では国別対抗6位、個人総合は宮平の11位が最高と、世界のトップから大きく水を開けられている状況は変わらない。 W杯には、夏の試合を含めた過去一年間の通算成績である世界ランキングリストの45位以内の選手に与えられる個人招待枠があり、基本の国別出場枠はこの招待枠プラス2と決められている。 長野五輪の頃の日本は、国別出場枠上限の8人の出場枠を持ち、個人招待枠を持つ選手はそれ以上いた。しかしこの4年間の不振で状況はすっかり変わり、今夏、W杯の夏版のサマーグランプリに招待枠を持つのは葛西、宮平、船木の3人のみ。日本の出場枠は5である。さらには、選手の個人招待枠が基準となるコーチ・スタッフの招待枠も、1になってしまった。 個人招待枠を持つ選手が多かった時代には、ポイントを獲得できそうな調子の良い選手をピリオド毎に派遣して、招待枠の数を維持することができた。減ってしまったものを増やすには、「+2」で出場チャンスを貰った選手が確実に予選を通過し、30位以内に入ってポイントを獲得するしかない。 さらに今年、招待枠、国別出場枠の計算方法が変更になり、出場枠が狭められる可能性もある。 国内戦からW杯へのステップは想像以上に大きなもののようで、踏み外して階段を上れない選手は多い。昨季は、W杯の下のクラスにあたるコンチネンタル杯の海外での試合に、日本選手は出場しなかった。資金面からの判断だった。八木チーフコーチは今年はぜひ高校生を派遣して経験を積ませたいと考えているが、さほど余裕ある派遣は期待できそうもない。コンチ杯で海外での試合勘を養うのも難しい。 ヨーロッパでの試合に出場する選手、スタッフの数が減ることは、国内で練習する選手たちが生の情報から遠ざかることも意味する。マテリアルのレギュレーションはほぼ毎年変更になるが、それによって起こる変化にも疎くなる。 企業チームにとっては、優勝以外は大きく取り上げられることのないW杯より、ほぼ毎週末行われ、全国放送もある国内試合での活躍の方がメリットがあるという考え方もあるかもしれない。 だが、W杯で成績を上げられる選手の数が増えない限り、トリノ五輪でソルトレーク五輪以上の成績は到底望めない。 ナショナルチームは昨季から情報収集担当のオーストリア人スタッフを置いた。八木チーフコーチは自らの目で見た世界の動きを企業コーチたちと共有したいと考えている。 企業チームは、しっかりと目標を『W杯で30位以内に入れるジャンプ』に置いて、この夏のトレーニングの方向性を決める必要がある。ベテラン3人のいない大会で優勝しても世界は遠いことは何度も証明されてしまった。 厳しい状況だが、ベテランたちの銀メダルが大きな勇気になるはずだ。 <ノルディック複合>
ノルディック複合は、大きな変化のある年となりそうだ。ベテランの森が研究者を目指して大学に入学し、国際舞台から引退したために、来季の第1ピリオドでW杯に出場できる選手は、社会人1年目の高橋大斗ただ一人となった。 W杯では昨季ポイントの計算方法が変更になり、下のクラスのW杯Bからの昇格がしやすくなった。反面、W杯でのポイント獲得人数が少なくなったために、降格も増えた。昨季は世界のトップがエリート集団を形成し、これまで以上にエリート集団とそれ以外にはっきり分かれたシーズンだった。 世代交代の真っ只中にある日本は、今年ナショナルチームの見直しを行い、徐々に変化が目に見えるシーズンになりそうだ。状況はジャンプより厳しいが、Aチームが選手一人となった今季は長年日本チームを支えてきたヨーロッパ人スタッフの見直しの好機でもある。 2つの全く異なる種目から成り立つ競技なので、強豪国は種目別に専門性の高いコーチ及びスタッフを備えている。日本も方向性を間違わずに新世代のチームを作ることが復活への第一歩となる。 <クロスカントリー>
今年の世界選手権でまたしてもフィンランド選手によるドーピング違反があったクロスカントリーは、ヨーロッパでのファン離れがさらに深刻になった。人気上昇中のバイアスロンに対抗するために、W杯では毎年何らかの新しい試みが行われている。 前半をクラシカル走法で、後半をフリー走法(スケーティング)で行う距離複合はつい4年前までは2日間かけて行っていた。が一昨季からは、途中でスキーを履き替え、インターバルなしで2つの走法を連続して競うクロスカントリー・スキーのトライアスロン版とでも呼ぶような試合が始まった。 2月の世界選手権でも好評だったとして、今後もこの試合形式が増える見込みで、「スキーアスロン」という正式名称も決まった。 また、通常の15秒から30秒のインターバルスタートによるタイムレースではない、マススタート(一斉スタート)の試合が増え、来季は半数以上を占めることになりそうだ。インターバルスタートでは、全員がフィニッシュするまで順位が確定しなかったが、一斉スタートなので最初にフィニッシュする選手が優勝とわかりやすい。 さらには、0.8キロから1.8キロという短い距離で競うスプリントも、年々試合数が増えている。これはまずタイムトライアルの予選を行い、通常の場合は上位16人がファイナルに進出し、準々決勝、準決勝と上位2名が次のラウンドに勝ち上がる勝ち抜き戦だ。レースは白熱し、しばしば写真判定に持ち込まれる。 これら3つとも、目で見た順位が試合の順位となるわかりやすさと競り合いの激しさでテレビでの観客増加を狙ったものである。 マススタートでは大集団から抜け出す技術や、一日に何度も短い距離を走るスプリントでの力配分など、選手には新しいトレーニングが必要となる。当然、不満も出ている。だが、全員が新たな方法を模索する状況は、伝統的な強豪国ではない国にもチャンスをもたらす。 日本も、スプリントで結果が出ている。女子の夏見円は昨季のW杯での最高位10位、スプリント世界ランキングで30位と、今まで日本選手には高いハードルだったシードグループ入りを2季連続で確保した。 男子でも、昨季途中からW杯出場チャンスを得た大学生の恩田祐一(4月から社会人)が3月のノルウェーでの大会で8位に入るなど活躍した。日本人男子W杯最高位の7位を10何年ぶりで更新する、一歩手前だった。スプリント世界ランキングでも25位と堂々のシードグループ入りだ。 またマススタートでも、世界選手権では男女ともに10位台に入っている。 女子では、ノルウェーの女王スカリが突然引退し、強豪ロシアはドーピングが引き金になった世代交代の真っ最中。男子でもノルウェーからスウェーデンへの政権交代とともに、新興国選手の活躍も相次いでいる。 流動的になった勢力図に、日本も割り込むチャンスである。ぜひ、このチャンスをものにして、2007年札幌開催の世界選手権に向けて、クロスカントリー・スキーをアピールする年にしたいものだ。“ビジュアル系”の選手が揃っており、メディアも黙っていられないはずだ。 |