ワ−ルドカップ開催1周年を記念したシンポジュウム(6月2日、東京)で、ドイツのフリージャーナリスト、マーティン・へーゲレ氏(51歳)は、「ペイ・テレビ(有料契約放送)におけるサッカー中継の展望は、明るくない」と語った。
ヨーロッパでは契約した巨額のテレビ放送権料支払いに行き詰まり破たんするエージェントなどが少なくないといわれる。 2002、06年両大会で世界の放送権料を28億スイスフラン(約2436億円)で国際サッカー連盟(FIFA)と契約したISL(スイス)、キルヒ(ドイツ)の有力エージェントが相次いで経営破たんした姿を間近にしているヘーゲレ氏が、このバブルがはじけないわけはない、と見るのも当然だろう。
両エージェントとも、失敗の原因は、ワールドカップにあったわけではないが、ヨーロッパ・サッカー界、テレビ界に影響を与えたのも確かだ。 受信料や広告収入(番組スポンサー料)に頼らず、コンテンツ次第では契約者のあふれる「ペイ・テレビ」は、スポーツ界にも、エージェントにも、得難いメディアである。
へーゲレ氏は、放送料の高騰は、マネーを払わなければ、テレビでスポーツを見ることができなくなる、それは間違っているというニュアンスも、その発言に込めていた。
マネーがなければ、というのは、実はテレビ界側も同じ、だ。 1周年ということで、国内各局が競って「あの時」を懐かしがる番組を並べてもよさそうだが、静かだ。
理由の1つは、エージェントが定めた映像の再使用料(再放送料)が、60秒48万円もかかるからである。 90分ノーカット、ともなれば、単純計算で4320万円。これではベッカムも、ロナウドも、カーンも、稲本も簡単にはリピートできない。
一方、莫大な放送権料を広告収入にはね返してきたアメリカ放送界も、オリンピック放送権をめぐって、これまでとは異なる様相を感じさせる。 国際オリンピック委員会(IOC)とアメリカ放送界による「2010年冬季と12年夏季オリンピック」の放送権交渉は6月5、6日ローザンヌ(スイス)で行われる予定だが、すでにAOLタイムワーナーとCBSが、競札から降りる意向を示している。
AOLはインターネット最大手でもあり、その部分の交渉がはかどらなかったと想われ、CBSは7〜9年さきで開催地も未定のイベントには不安な要素が多すぎる、としたようだ。
これで、交渉に参加するのは、すでにアテネ―トリノ冬季―北京と3大会を握るNBC、巻き返しに出たいABC―ESPN、宿願をかけるFOXの3者とみられ、2大会で20億ドルラインを超えるのは確実とみられる。 スポンサーを見込めるのだろうか。
この余波は、夏以降ヨーロッパ、日本(NHKと民放合同)を襲うことは明らかだ。 放送権料の“最終負担者”を誰に求めるか。
国と地域のスポーツ観によって異なる時代、と言えそうである―。 ■関連記事バックナンバー 144号(2003年4月23日号) 杉山茂『アメリカ、早くも7年さきのオリンピック放送権交渉へ』
http://www.sportsnetwork.co.jp/adv/bn/vol144.html#01 |