いつもテレビのニュースを見ては感心している。
米メジャーリーグで1年目の挑戦を続けている松井秀喜のことだ。毎試合後のインタビューで、いつも変わらずにあれだけ冷静かつ丁寧な応対をするスタープレーヤーは、そういるものではない。というより、他には例のないことではないか。
シーズンが始まって以来、毎試合後に欠かさず共同インタビューが行われている。映像で見る限り、松井は常に平静な表情、落ち着いた口調である。不愉快そうに顔をゆがめたり、語気を荒らげることはない。いい結果が出た日も、まったく打てなかった日も、それは変わらない。
現地で密着取材を続ける記者に聞いてみた。時には不機嫌だったり、ろくに質問に答えない日があるのではないか。嫌な顔をすることだってあるのではないか。
答えはたいへん明快だった。 「そういうことはいっさいない。どんな時でも同じである。テレビのカメラがあってもなくても、彼はいつも同じ態度で、平静かつ誠実に答えるのである」
試合が長引いて疲れ果てることもある。急いで移動しなければならない日もある(スーツにネクタイ姿で登場する時だ)。打撃の低迷が長引いて、不本意な形のまま試合を終えることも少なくない。それでも、インタビューを受ける時の態度物腰は変わらないのだという。
きつい質問が飛ぶこともある。「フォームを変える気はないか」「もっとベースに近く立つべきではないか」。短気な選手なら「よけいなお世話だ」とでも吐き捨てるだろう。だが、松井は嫌な顔ひとつせず、きちんと丁寧に答えるのだというのが、連日取材している記者の証言だった。
日本のプロ野球やJリーグのスター選手で、こうしたメディア対応をする選手はあまりいない。人気球団ほど、その傾向が強い。活躍した時、いいことを聞かれた時ならともかく、調子の悪い日に聞かれたくない質問が出ようものなら、露骨に不愉快そうな顔をして記者をにらみつけるのが落ちだ。そうでなければ、報道陣を蹴散らすようにして無言のままどこかへ行ってしまうのである。
もちろん、選手に答える義務があるわけではない。取材側に問題がある場合も多い。しかし、メディアの一員として、またスポーツファンの一人として、選手にはできる限り誠実に答えてもらいたいと切に思う。メジャーな競技のメジャーな選手であればあるほど、自らの競技の中身について、注目しているファンたちにわかりやすく伝えてほしいからだ。
競技スポーツ、中でもプロスポーツは、プレーする選手と見る観客によって成り立っている。選手はプレーを通して自分というものを伝えようとし、観客はその思いを受け取って感動する。この両者がお互いによりよく理解し合うのに、言葉は不可欠なのだ。雄弁である必要はない。自分のプレー、自分の思いをより明確に伝えようとする意思さえあれば、たったひと言でもファンたちは選手の心意気をちゃんとくみ取る。 そうすれば、両者の絆は深まり、そのスポーツはさらに発展する。試合後のコメントというのは、グラウンドとスタンド、そしてテレビやラジオの前にいる何百万人とを結ぶ架け橋なのである。
おそらく松井秀喜は、そうしたことをずっと考えてきているのだろう。もっと若いころから、スポーツというのはそういうものなのだと考えて、そうした対応を自然に身につけてきたに違いない。真のスポーツマン、真のスーパースターというべきだろう。
最近は、メディアを批判し、ほとんど対応をしないスター選手も少なくないようだ。批判があるのは当然で、メディア側も猛省しなければならない。ただ、批判や対立が、自分をアピールするためのポーズのように思える例もまた少なくない。そんなことで、自分のプレーについてろくに話もしないのであれば、それは期待し、注目してくれるファンへの裏切りではないか。
松井とて、インタビューを受けたくない時も話したくない時もあるだろう。内心のいらだちを押さえつけることも多いだろう。だが、プロスポーツマンはこうあるべきなのだという信念と心意気が、彼を支えているのだ。となれば、メディア側もそれにこたえて節度ある取材を厳守していかねばならない。
長い打撃不調の時も、ファンが心をこめて応援を続けたのは、松井のそうしたところを評価したからでもある。そしてまた、たくましくて心やさしいスラッガーも、そんなファンの気持ちを力としているはずだ。 |