日本のスポーツを取り巻く、ある種のゆがみのようなものを、毎年この時期になると感じさせられる。 プロ野球・オールスターのファン投票である。
ファン投票の歴史にはおかしな出来事がつきまとっている。甲子園で人気を集めた新人が、実力不足は目に見えているのに選出されてしまう。これといった成績を残していない選手が、明らかに組織的と思われる投票で特定球団からずらりと選ばれる。 セ・リーグの場合は、成績がよかろうと悪かろうと、他にいい選手がいくらでもいようと、名の知れた巨人勢ばかりが1位を占める。そんなことが毎年のように繰り返されてきているのだ。
そして、今年はといえば、試合にも出ていない川崎憲次郎の大量得票である。いったいどうして、スポーツの世界にこんな発想が持ち込まれるのだろうか。
川崎のケースは論外だが、他の得票ランクにも疑問がないではない。大躍進の阪神勢が大量得票したのに不思議はないが、ポジションによっては、他の選手の方が1位にふさわしいと思われるところもある。 つまりは、今回も本当に実力通りの得票にはなっていないというわけだ。
ファン投票は人気投票とはちょっと違うものだと思う。 オールスターの趣旨は、どこから見てもナンバーワンの選手がチームを超えて集まるところにあるはずだ。投票で選ばれなかった実力派は、もちろん監督推薦で出場してくるのだが、ファンたるもの、それでよしとしていていいのだろうか。ある意味で、この投票はファンのレベル、見識を問われるものでもあるではないか。
ひいきチームの選手を応援したいのはわかる。話題の選手を気にかけるのもいい。ただ、オールスターの本来の趣旨を考えれば、ここは真のナンバーワン・プレーヤーに一票を投じて、熱心なファンとしての見識を披露するべきだ。それでこそ、国民的娯楽を支えるファンというものではないか。
現にパ・リーグの投票は、ほぼ妥当な結果となることが少なくない。注目度はセに比べて大幅に劣ってはいても、そのファンたちはオールスターの趣旨をきちんとわきまえている。最近は人気だけでなく、実力でもセに後れをとっているパ・リーグだが、この点だけは圧勝していると言っていい。
日本のスポーツの世界が、近年どこかゆがんで見えるのは、この例にみるように「本来の」趣旨、あるいはスポーツそのものの魅力から目がそれていることが多いからだ。 特定の競技のみが時流に乗ってもてはやされる。個人の面でいえば、派手なタレント的側面が注目されて、肝心の競技者としての実力、魅力がないがしろにされる。そんなことばかりが重なって、スポーツに向けられる視点がどんどんずれ、ゆがんでしまっているのである。
本当に野球が好きなファンたちは、ぜひ結束して、どこから見ても文句のない結果を出してみせてほしい。本来の趣旨に外れた票を駆逐してほしい。 来年こそ、本物のスポーツファンの見識と誇りを見せつけてやろうではないか。 |