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■vol.160(2003年8月20日発行)

【杉山 茂】 王貞治監督のあげた強く高い声
【松原 明】 アメリカ・マイナーチームの心意気
【早瀬利之】 NECレディス、またも霧に泣いた
【藤原清美】 ブラジルサッカー、夜9時40分キックオフの謎


王貞治監督のあげた強く高い声
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 福岡ダイエー・ホークスの王貞治監督が、テレビのバラエティ番組で、悔辱的な扱いを受けた、として強硬な抗議を示した。
 
 この番組を見たスポーツ関係者の1人は、プロ野球界が即座に抗議するだろうと思ったという。
 
 プロ野球に留まらず、スポーツ界屈指の人格者、誰からも愛されつづけるスーパースターの王貞治だから問題になる、といった話ではない。
 
 最近は、面白ければいいとばかりの笛に踊らされた番組が、何の抵抗もなく制作される。 出演者は怒らないのだろうか、いや、怒って台本を投げ棄てるべきだと思うのだが、ゲラゲラ笑って通り過ぎてしまっている感じだ。
 
 筋書きにナットクして登場するタレントをとやかく云う筋合いはないが、第3者を勝手に、ユーモアのラインを超すような扱いで、話を組み立てあげるのは、邪道以外の何ものでもない。
 
 王監督にも、球団にも、球界にも、スポーツ界にも、もっともっと、声をあげて欲しい。
 
 この問題とは別に気になるのは、スポーツ番組の芸能カラー化が、いちだんと進んでいる傾向だ。
 
 力のある競技者が、ピッチやコートやフロアやフィールドで見せる表情とは別の一面をのぞかすのは、時に“味”がある。 それでファンや観客を増すこともあるだろう。
 
 だが、競技者としての節度を失ってはピエロだ。 わびしさが浮き出る。
 
 競技とは無関係の軽口を叩くのが、陽気で個性的と思いこんでいるかの姿も情けない。
 
 そうした“薄さ”を承知で、テレビ番組やインタビューが企画されるのは、さらに空しい。
 
 ワールドレベルのイベントにも拘わらず、人気タレントを放送席やスタジオに並べて、番組の盛り上りを狙う手法は、批判が多いが、送り手側は高い放送権料に見合う視聴率を稼ぎ出すためには・・・という。
 
 放送権料がはね上がるのは、そのイベント(競技会)の持つ質と量が秀れているからだ。
 
 素材だけで、充分、世間の関心を高められるからこその金額である。
 
 そのもっとも大切な部分に自信が持てず、タレントの人気にすがるあたりに、日本のスポーツ界、テレビ界の“低さ”があるのだ。
 
 王監督のあげる強く高い声は、スポーツ界にも向けられるものではないかー。

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アメリカ・マイナー・チームの心意気
(松原 明/東京中日スポーツ報道部)

 取材でニューヨークへ行くチャンスがあったので、ブルックリンに新設された、メッツのマイナー・クラブ「ブルックリン・サイクロンズ」 を訪ねた。

 マンハッタンから地下鉄で約1時間、W、Qラインに乗れば、終点のコーニー・アイランド駅で下車。すぐ目の前にある。

 かって、ブルックリンにはナ・リーグの強豪ドジャースが活躍していたが、1957年を最後に、ロサンゼルスへ去り、以後、ここに大リーグはなくなった。
 
 ドジャースは、このブルックリンに多く住んでいた労働者たちの憩いの場だった。マンハッタンのヤンキースに対抗して頑張るドジャースに、彼らは夢を託し、声援を送っていた。今は、ドジャースのプレーしていたエベッツ・フィールドは取り壊されて跡形もなく、サッカー場に姿を変えてしまっている。

 「今一度、応援できるチームを」という地元の声に応えたのは、前ニューヨーク市ジュリアニ市長。ブルックリン出身のメッツ・ウィルポン・オーナーに働きかけ、この、コーニー・アイランドに「「キースパン・パーク球場」を作り、マイナーのチーム「サイクロンズ」を2002年春に誕生させた。

 数々の名選手を生み出したドジャースの陰をだぶらせながら、市民は、この「サイクロンズ」を応援した。チーム名は、ここの名物遊園地で人気を呼ぶジェットコースターから付けたものだ。

 サイクロンズの良さは建設と同時にスタンド内部に「ブルックリン殿堂」を作り訪れるファンに歴史を語り告げたことだ。

 ドジャースの昔の展示と並行して、現在のチーム作り、ファンとの交友を語り掛けているのが素晴らしい。

 この殿堂のチケットは1j別にいるが、ここを見学してから、スタンドで応援するコースは、他のマイナーでも、あまり見られない。熱心なファンの多い、この土地では、常に満員で熱気がある。

 8月3日にはカラーの壁を初めて破りこのブルックリンから巣立った、ジャッキー・ロビンソンの欠番セレモニーがあった。ブルンバーグ現ニユーヨーク市長も駆けつけ「野球は永遠に生き続ける」と、ファンにアピールした。

 メッツに依存するのではなく、地元密着で生きるサイクロンズは、フロントから全員明るい表情で生き生きしていた。

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NECレディス、またも霧に泣いた。
(早瀬 利之/作家)

 NECレディスは福嶋晃子が2連覇した。 それも霧で中断(2日目)するなど、大会としては進行の悪い内容だった。

 テレビ(フジ)のみは、前日の模様を中継できたから、視聴率には支障はなかったものの、現場で観戦したものには辛いものだった。 「むしろテレビで見ていたほうがよく分かった」という軽井沢のリッチなゴルファーが語っていた。

 例年、この季節は霧雨で、何も見えなくなる。 私も何度か、現地取材に出かけたが、晴れた日は一日もなかった。

 傘を差しての取材だが、霧の中では、誰がショットしているのか、全く分からない。

 しかもこの季節は、軽井沢のホテルがとれず、高崎駅前のビジネスホテルから毎日取材に出かけた。 これには弱った。

 試合の内容は分からない、足の便は悪いで「なぜ、このお盆の時期に軽井沢なのだ」とプレス仲間も怒っていた。

 どうも主催者側のトップが軽井沢の別荘に泊まっているから、とのことだが、それにしても「霧の大会」では何にもならない。 

軽井沢にいてテレビ観戦とは、シャレにもならない。 いっそのこと、1週間ずらしたらどうだ、と提案したことがあるが、「このお盆休みの軽井沢は特別シーズン」との返事だった。
 
 しかし、こうも霧の大会が続いては、満足なショットはできない。 見る人はチラホラ。 あげくのはては中断。 何も軽井沢でなくても良いと思うのだが、今ひとつ、コダワる理由が聞きたい。

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ブラジルサッカー、夜9時40分キックオフの謎
(藤原清美/スポーツジャーナリスト:リオデジャネイロ発)

日本でサッカーのナイトゲームと言えば、7時キックオフ。一方、ブラジルでは日本なら考えにくいほど遅い。夜9時40分キックオフが基本である。

 サッカーが国民最大の楽しみであるブラジルでは、もちろん国内のリーグ戦や代表チームの試合等、様々な試合が生中継される。ブラジルのテレビ業界は、グローボというTV局の一人勝ちで、サッカーの魅力ある大会や試合の中継もグローボの独壇場。しかし、そのグローボのもう一つのウリがドラマ。これがサッカーのキックオフ時間を左右しているのだ。

 グローボでは多くの放送時間がドラマに費やされる。中でも、日曜を除く週6日、夜8時55分から放送される連続ドラマは最重要で、人気シリーズともなれば最終回が視聴率80%を記録したこともある。そのグローボの方針により、サッカーは、7時のドラマ、8時15分のニュース、その後、満を持して放送されるこの最重要ドラマの終了後にキックオフするのが基本なのだ。恐るべし、グローボ帝国。

 私は最初、勘違いした。サッカーの試合時間がドラマの都合で決まるとは、サッカー王国がサッカーよりドラマを優遇するのか。しかし、実はその逆だった。ドラマは一番良い時間帯に放送し、視聴率を取るために保護すべきもの。しかしサッカーはどんな時間であろうと視聴者は見るから、夜遅くても構わないという発想なのだ。
 
 スタジアムの観客にもあまり影響はなさそうだ。もちろん、対戦カードやチーム状況によって客の入りの良し悪しはある。しかし、重要な試合、魅力的なカードならば、夜遅くとも何万人もが平気で詰めかける。そして延長やPKになれば、0時も回った深夜に、その何万人もが一斉にスタジアムを出て帰路に着く。路線バスが深夜2時台まで走っているし、どこまで帰るのか、ゾロゾロと歩くサポーターの行列も多い。要するに、見たい観客は何時であろうが見に来るのだ。

 グローボは中継権を逃すわけにはいかない。サッカーという最優良ソフトを失うだけでなく、他局がサッカーをドラマの時間帯にぶつけてきたら、ドラマの視聴者まで失ってしまう。Jリーグ最終節でさえ、地上波で生中継が見られなかった日本とは、まるで正反対の発想に思えるサッカーテレビ事情だ。

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