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■vol.161(2003年8月27日発行)

【杉山 茂】 深刻な「サッカーくじ」の売り上げ下降
【佐藤次郎】 ベテランの深い味わい


深刻な「サッカーくじ」の売り上げ下降
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 「サッカーくじ」の伸びが鈍い。 なかなか売れないのである。
 
 第94回となる8月23、24日分は、関係者待望のコンビニエンスストアでの販売(ローソンの全国約7700店)が始められたが、前回(8月16、17日分)に比べて7032万円余のアップにとどまった。
 
 “効果”が現れるまでには時間がかかりそうだ。
 
 逆の影響をのぞかせたのは、今シーズンから加わった新方式「トトゴール」で、初めて1億円ラインを下回ってしまった。
 
  「くじ」と「ゴール」を合わせて総額600億円を見込んでいる今年度の展望は、これでは暗い。
 
 初年度(01年)604億円の売り上げで、まずまずの助成(約69億円)となったが、02年度は200億円近い落ちこみで、スポーツ界は早々とアテがはずれた。
 
 「スポーツ振興」の財源を、という大命題にブレーキがかかっては、何にもならない。
 
 コンビニエンスストアでの販売は、来年3月には、新たな参入店もあり、これまで、売り上げの伸びなかった一因とされた「どこで売っているのか」「買いにくい」の指摘はとりあえず解消する。

 だが、それで「なぜ売れないのか」の問題が片ずくわけではない。
 
 この3シーズン(正確には2シーズン半)で、熱中する人が限られてしまったファン層を、何とか拡げたい。
 
 毎回、勝負の推理を楽しみ、高額な配当に挑むのはサッカーに限らず、ギャンブルスポーツでは、自然ななりゆきである。
 
 推理性が伴うからこそ、というのは、賭博(とばく)性を薄めさせるためにか、よく使われる言葉だが「サッカーくじ」は、推理性だの、データ分析などと言わず、もう少しリラックスしたい。
 
 無邪気に的中数を楽しむムードを高めなければ、一般化しないだろう。
 
 少々のJリーグへの知識でも、毎回、1票を投じる面白さに誘う仕組みの開発が欲しい。
 
 私は「サッカーくじ」構想が取り沙汰された時(92年)から、日本の社会に、こうしたタイプのスポーツ参加が育つのか、がカギと思ってきた。 
 
 「見るスポーツ」の掛け声を実らすこととは、別問題であった。

 シーズン毎の売り上げ高の下降は懸念が当った。
 
 2試合外れ3等までの現行を、4試合外れ5等までに広げるような「的中を喜ぶサッカーくじファン」を増やす手が欲しい。
 
 売り上げ額を心配するのは、それがそのまま、地道なスポーツ事業の展開にブレーキをかけてしまうからだー。 

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ベテランの深い味わい
(佐藤 次郎/スポーツライター)

 スポーツの主役は、たいがいの場合、パワフルで勢いがあって才能にあふれた若者である。だが、年期の入ったファンにとっては、ベテランの渋い働きがなんとも味わい深く感じられるものだ。ことにプロの場合はその観が深い。ひとつひとつのプレーに彼らの人生そのものがにじんでいるように思えるからだろうか。
 
 プロ野球の世界では、まず八木裕の存在を挙げたい。阪神タイガース一筋に17年目を迎えている38歳の右打者は、ここ何年かは代打の切り札として活躍している。寡黙でもの静かな雰囲気のベテランが、今季の阪神の驚異的な独走に果たしている役割は大きい。優勝するチームには、必ずこうした選手がいるに違いないと思わせる男である。
 
 17年間は必ずしも順風の時ばかりだったわけではない。むしろその反対かもしれない。入団の前年を最後にチームは優勝から遠ざかった。八木自身も、故障や不振でレギュラーの地位を追われてから、代打で復活するという道をたどっている。そして、いまのプレーには、その17年がすべて生かされているという感じがある。
 
 「どんな時でもなんとかする、最低でもこれだけはやる、という気持ちで打席に立つ」と八木は語る。代打の切り札というのは、常に勝負を分ける場面、つまり強烈なプレッシャーがかかる局面ばかりで登場する。そこで、彼は状況を読み、相手投手の配球を探り、風の具合にも気を配り、点を取るために最も可能性の高いバッティングを瞬時に選択して集中する。
 
 そんな難しい仕事をさらりとこなして、結果を出しているというわけだ。スター選手たちの派手な活躍と同じくらい、時にはそれ以上に野球の面白さを感じさせてくれるプレーと言わねばならない。そこにはまさに、八木裕ならではの野球人生が凝縮されているのだ。
 
 「打てた時はホッとする。いい気分というより、ひとつ仕事を消化できたという安堵感の方が強い」
 
 それが「代打の神様」とファンに評される男の、さりげない感慨である。その言葉にもまた、若いスターにはない、なんともいえない味が含まれている。
 
 犠牲バントのメジャー記録に並んだ巨人の川相昌弘にも、八木に相通じる雰囲気がある。八木と同じ38歳。バントだけでなく、どのプレーにも、21年の長い経験の積み重ねが生きている。確実にバントを決めて、なにごともなかったようにベンチに戻っていく姿からは、成功も挫折もすべて腹におさめて、ひたすら好きな野球に集中しようとする純粋さがうかがえる。
 
 どのチームにも、こうした選手がいる。彼らのプレーは目立たないが、じっくりと注目していると、その人生までも垣間見せる味わいが秘められているのがわかる。プロ野球を見る醍醐味のひとつと言っていい。
 
 ところで、もうひとつのメジャーなプロスポーツであるJリーグには、そうしたベテランがあまり見当たらない。もちろん競技の特質が大きいのだが、若い選手ばかりの直線的な戦いはもうひとつ味気ないものだ。ベテランの味わい深いプレーが随所に見えるようになった時が、Jリーグの成熟の時なのかもしれない。

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