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■vol.168(2003年10月15日発行)

【杉山 茂】 女子レスリング、試練の惜敗
【早瀬利之】 日本オープンは特別なものではなくなった。 ナショナルオープンに特典を与えよ。
【佐藤次郎】 リングの外がすっきりしない


女子レスリング、試練の惜敗
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 このまま一気にアテネ・オリンピックの表彰台中央までかけ上がってしまうのではないかと思われた日本の女子レスリングが、思わぬつまずきをのぞかせた。

 7ヶ国が参加して東京・代々木で開かれた第3回国別対抗戦・ワールドカップ(10月11、12日)は、9月の世界選手権(ニューヨーク)で圧倒的な強さを示し7階級のうち5階級を制した日本のV3が期待されながら、アメリカとの全勝対決を3−4で落としてしまったのである。

 終ってみれば、アメリカは世界選手権で金メダルこそ1個だったが、銀4、銅2を手にしており悔れぬ相手、日本との実力は五分と見てよかった、といった声がマットサイドで聞こえた。

 世界選手権の前、日本オリンピック委員会(JOC)の強化責任者でもある日本レスリング協会・福田富昭会長が「オリンピック競技に決まり、各国選手の目の色が変わってきた。ニューヨークで好成績を上げたとしてもアテネは油断できない」と話していたのを思い出した。ワールドカップのあと日本の関係者の1人は「日本勢は研究されつくしていた」とも語った。

 日本スポーツ界は、これまでもチームスポーツ、個人スポーツを問わず、オリンピックイヤー以外の年に行われた世界選手権や国際大会で最上の成績をあげながら、本番ともいうべき大舞台で失敗するケースが少なくなかった。

 外国選手(チーム)は、戦力の引き上げかたが総ての面で洗練されており、事前の実績にプラスアルファした程度の自信で臨む日本勢は苦い汁をのまされる。

 アテネでの女子レスリングは4階級(48、55、66、72s級)。このうち世界選手権では48s級以外の3階級で日本が優勝している。アメリカなど各国にしてみれば、オリンピックも日本選手に“独走”されてはかなわない。自分たちが、それに代わるには、日本を徹底的にマークすることだ。照準はしぼり易い。

 総当り戦のワールドカップで、アメリカを除いては各国とも、ベストメンバーの日本から1ポイント(1勝)をあげるのさえ苦労した。ロシアも0−7だ。だが、新種目だけに、残された時間で新星が飛び出してくる可能性は充分ある。

 日本選手はホームでの敗退は悔しかろうが、それがオリンピックへの道のりの厳しさであり、険しさである。試練の惜敗といえる。

 女子レスリングは、11月アメリカへ乗りこんで、アメリカ選手と合同強化キャンプを張る、という。これからの10ヶ月、各競技のオリンピックをめぐる浮き沈みは、いつのものように凄まじいうねりを見せることになる。楽しみではある―。

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日本オープンは特別なものではなくなった。
ナショナルオープンに特典を与えよ。
(早瀬 利之/作家)

 今週は日光CCで日本オープンが開催される。昭和2年に始まった日本最高位のトーナメントであるが、残念ながら、特別なものではなくなった。その理由は、世界ランク制度、国内のビッグマネーのトーナメント及び、優勝者に与えられる特典制度の消無である。

 かつては、日本オープンに優勝すると、翌年のマスターズ、全米オープン、全英オープンの出場資格が与えられた。今日ほど海外メジャー戦出場のチャンスがない時代で、誰もが憧れの海外メジャー出場資格を狙って戦った。

 その上、10年間の国内試合出場資格も与えられ、まさしく両手に華だった。ところが、日本オープン優勝者に与えられる10年シード権も、マスターズや全米オープン出場資格もなくなり、ただのトーナメントに成り下がっている。全米、全英オープンに出場するには予選会で資格をとる方法もあるなど、他の道が出てきたからである。

 それでは何のメリットがあるかといえば、せいぜい5年間のシードである。5年間は国内の全試合に出られる。その他に全英オープンの出場資格くらいなもので、マスターズや全米オープンに出るには世界ランキングを50位までに上げないと、ノーチャンスである。優勝賞金も2,000万円と、月並み。

 それでいながら、開催コースのコースセッティングは選手泣かせだ、サディスティック。何のために選手をいじめるのか、理解できない。いじめるなら、それなりの特典、例えば優勝賞金5,000万円、シード権10年などあってよい。日本オープンの特典を、今一度、見直すときであるまいか。

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リングの外がすっきりしない
(佐藤次郎/スポーツライター)

 ボクシングは素晴らしくエキサイティングなスポーツだ。殴り合いが行われるからではない。じっと見つめていると、逃げ場のない狭いリングで一対一で向き合う二人の思いが、ありありと見えてくるからだ。肉体と拳の戦いだけでなく、心と心のぶつかり合いもまた、きわめてエキサイティングなのである。
 
 容赦なく相手にダメージを与え合う。弱点を徹底的につく。まるでありったけの憎悪をぶちまけたような戦いもある。試合の間、リングではそんな光景が続く。だが、終了のゴングが鳴れば、両者は必ず抱き合い、ねぎらいの言葉をかけ合って終わる。ボクシングが素晴らしいスポーツだとあらためて実感するのは、そんな時だ。
 
 その偉大なる競技で、どうも気になることがある。リングの外にすっきりしないことが多すぎるのだ。
 
 ホームタウンデシジョンについては、ことさらに言っても仕方がないのかもしれない。これにはあまりにもいろいろな要素がからんでいるのだろう。ただ、どうしてこんな判定になるのかという試合が続くと、ボクシングそのものを見る目が変わってきてしまうに違いない。たとえば、先だってのWBCバンタム級の世界戦、ウィラポン×西岡の試合がどうしてドローになるのか。この時は翌日の新聞もそろってウィラポンの優勢を指摘したものだ。
 
 それを中継するテレビの姿勢もおかしい。日本選手と外国選手の対戦となれば、最初から最後まで日本サイド一辺倒で(相手がどんなに優れたボクサーでも、だ)、明らかに相手がポイントを挙げていても、さも日本選手が優勢に試合を進めているように伝える。そして判定が妥当なもので決着すると、「いやあ、意外な判定ですねえ」と言うのだ。
 
 ボクシングはわかりやすいスポーツで、しっかり見ていれば誰にでも戦いの優劣は判断できる。なのに、日本びいき一辺倒で放送すれば、見ている方はうんざりするばかりだ。地元サイドを応援するのは当然でも、正確な状況を伝えようとしないのであれば、それはひいきの引き倒しと言うしかないだろう。
 
 最近は観客にもいささか問題がある。以前は、試合が終われば双方に温かい拍手が送られたものなのに、近ごろは、どうかすると判定勝ちした外国選手にブーイングや罵声が浴びせられたりする。これはひどく後味が悪い。
 
 どんなに激しい戦いを繰り広げようと、終了のゴングが鳴れば二人のボクサーは抱き合って健闘をたたえ合う。その素晴らしい光景に周囲が泥を塗ってはなるまい。

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