いまのところ、アメリカ・メディアからの情報以外に、実情をつかみようがないが、アメリカ・アンチドーピング〜反薬物使用〜機構(USADA)が明らかにした同国スポーツ界の薬物違反疑惑は、連日、広がる一方で、アテネ・オリンピックまで10ヶ月というこの時点で、空前のスキャンダルになりそうな雲行きだ。
きっかけは、今夏、アメリカ陸上競技選手による禁止薬物使用の情報が、匿名でUSADAに伝えられたことだった。 USADAも、新しい事実をつかんでおり、「これほど多数の競技者を巻き込んだ違反の例を知らない」(10月17日、各紙)としている。
8月の世界選手権(パリ)で、女子の短距離2種目を制したケリー・ホワイトがドーピング違反で金メダルを剥奪されたばかり。アメリカ陸上競技界の汚染は、またか、と思わせるが、USADAが嘆くように、今回は他のスポーツにも飛び火しそうで、大リーグやプロフットボール(NFL)にもと伝えられ、そうなれば、アメリカ社会を大きく揺るがそう。
禁止薬物は、次から次へと“開発”され、それを防ぐために、検査方法が高まる。 今回も、従来の尿検査では及ばなかった筋肉増強剤の新種「テトラハイドロゲストリノン」(THG)と呼ばれる薬物を検出する新方法ができたことが引き金になっている。
競技力の向上を求めてコーチともども「薬に頼る状況」は、選手生命をかけるリスクを負いながら、アトを絶たぬどころか、むしろ拡がっている感じだ。
人類の限界に挑むミクロなタイムとの争い、迫力に満ち、より刺激的なプレーが報酬につながる現代スポーツの影が忍び寄るのである。 日本でも、報酬はともかく、薬の服用を「活用」と云いかえて、80年代、90年代とは比べものにならぬほど、危うい会話が、頂点に近い競技現場では、取り交わされているようだ。選手への周囲の過大な期待が、薬へ走らせる、とも云われる。
日本では、アメリカやヨーロッパほど、とスポーツ界の関係者は、安心した表情を浮かべるが、一方で、ドーピングへの認識が薄く、低いのも事実だ。国体で初導入された夏季大会の結果(5競技15検体)は、全て陰性でことなきを得たが、アメリカの事態を対岸の火と見ていることは、もはや許されない。
国際陸上競技連盟(IAAF)は、8月の世界選手権で採取した約400の尿サンプルを改めて検査しなおすことを検討しはじめたと伝えられる。
国際オリンピック委員会(IOC)やアメリカオリンピック委員会(USOC)の毅然とした態度と、改めて日本スポーツ界の啓発が今回は特に望まれる。 |