そのニュースを報じた新聞を見て、しばらくは信じられない思いだった。いったいどこをどうすれば、試合の最中にそんな言葉が出てくるのだろう。
Jリーグ・セレッソ大阪の大久保嘉人選手が、先だっての試合で審判を「金もらってんだろ」と罵ったという出来事は、それほどショッキングなものだったと思う。そればかりか、以前の試合では、やはり審判に対して「ボケ」「かかってこんかい」と言ったともいう。
若いとはいえ、トップリーグの押しも押されもせぬスターであり、日本代表にも選ばれるほどの選手である。それが、こともあろうに大事な試合中に、審判にこんな言葉を投げつけるとは、いったいどうしたことだろうか。
その試合は警告が相次いで出されるという荒れたものだったという。選手側にも不満がたまっていただろうし、試合全体が異様な雰囲気になっていたに違いない。しかし、だからといって選手が審判を「金もらってんだろ」などと罵ったら、ルールも秩序もフェアプレーもあったものではない。スポーツそのものの尊厳を踏みにじる行為と言うべきだろう。
スポーツはただの争いごとではないし、まして喧嘩でもない。ルールや最低限の節度を守り、スポーツマンシップを持って行われるからこそ、激しい戦いが興奮や感動を呼び、見る側の心に深くしみいるのである。そのために試合進行を司っている審判に対して、まるで無頼漢の喧嘩のような悪罵を投げつけたりしたのでは、スポーツは成立しない。それではただの争いに過ぎないではないか。
この行為に対して、大久保の闘争心をむしろ評価する論調が一部にあった。それはちょっと違うだろう。スポーツマンシップも持たず、スポーツの本質も忘れて、ただ競技の能力がある選手がいくら活躍しようと、ファンは喝采しない。スポーツはその人間の自己表現の方法であって、スポーツの本質を忘れた人間のプレーはただのパフォーマンスに過ぎないからだ。
ファンとしては、そんな選手の活躍で応援するチームが勝ってもちっとも嬉しくない。自由奔放な個性と、スポーツマンシップを忘れた粗暴さとは違う。この問題をこのまま放置しておけば、遠からずJリーグの試合は荒涼たる雰囲気に包まれることになるだろう。
サッカーだけの問題ではない。プロ野球でも同じだ。ちょっとインサイドにボールが来ると、すぐさま詰め寄って投手を脅す打者。審判を「お前」呼ばわりして恫喝する監督やコーチ。そうした行為には、スポーツの持つ尊厳を大事にしようなどという思いは微塵も感じられない。そして、そのような行為を闘争心の現れ、男らしさの発露として受け止める向きにも大いに問題がある。
今回の出来事に関しては、Jリーグもチームも選手たちももっと重大なものとして受け止めるべきだ。こうした、スポーツの尊厳を否定するような行為を、今後は完全になくすように宣言し、努力すべきだ。そうしなければ、これはファン離れの大きな一歩となるだろう。
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初めて1つのテーマ(題材)を2人のライターが論じました。 ご意見をお寄せ下さい。 今回は両氏とも同じ論旨ですが、1つのテーマを対角線上で採りあげる試みを今後行いたいと思っています。
編集部
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