90年代の、あの超満員とまではいかなかったが「早明ラグビー」に50000人の大観衆が集まった(12月7日・国立競技場)。
今シーズンの両大学の試合ぶりからすれば、空席がのぞいても、と思われたが、さすがに“伝統の”、である。 だが、ラグビーの試合場も変った。これは今回が初めてではないが、入口には、両大学のファンを意識的に分けるような観客席の案内がある。そして応援団の交歓、チアガールのパフォーマンス‥。
このような“仕込み”は、ラグビーには不釣り合い、不必要、と言われてきたものだ。 旧態を守るばかりでは、ほかのスポーツやエンターテイメントに追い抜かれてしまう、そこへ少子化による愛好者の減少が重なった。
新しさというより、焦りから掘り出した活路の1つでもある。 ニュアンスは異なるが、頂点強化と極上の攻防を見せる狙いからスタートさせた「トップリーグ」も、この一環にある。
大学と「トップ」の“両立”が、どのように進むかは、今シーズンの大きな興味だったが、ファンの関心を観客数で測ると、学生(特に関東対抗戦グループ)のほうに勢いがある。まだまだ、ラグビーは、内容の高さよりも、学生の熱気が健在といえる。こうしたスポーツは、今や、駅伝など数えるほどだ。
といって、大学ラグビーが、水準の低い展開に終始していては、いずれ、ファンは「トップ」へ向かい出す。 大観衆の熱狂に囲まれた「早明戦」も、一方のチームに肩入れしていなければ、見つづけるのが辛い80分間だった。
「トップリーグ」の人気が定着せぬうちに、学生ラグビーの大看板が、このような内容をつづけていると、ラグビーそのものへの関心が、さらに地盤沈下してしまうのではないか。私の期待は“共存”だ。
気になることが、この日、もう1つあった。試合前に「ラグビーは、フェアプレーとノーサイドの精神を伝統としています。(この理念に則った)プレーの妨げとなる応援はご遠慮願います」という場内アナウンスが流されたのだ。
失笑がもれるかと思ったが、意外にも小さな拍手が起きた。 郷愁に取りつかれているのではない。新しさ、の名分のもとに、様相が変ってしまうことへの懸念がファンの胸の中にひそんでいるのだ。
選手の技術、ファンのマナーも含めて総て“ラグビーのよさ”が受け継がれて、共存も果たせられるのではないか−。 |