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■vol.179(2003年12月17日発行)

【杉山 茂】 大学バレーボール不祥事を生む“背景”
【岡崎満義】 巨人軍が巨人になる
【高田実彦】 「入来騒動」にみる巨人フロントと選手のお粗末ぶり



大学バレーボール不祥事を生む“背景”
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 全日本大学バレーボール選手権の男子・決勝トーナメント組み合わせ抽選(12月9日・東京)で、日本体育大学が、大会運営側に携わっていた同校の学生と、くじを引く同校のマネジャーが示し合わせ、抽選具に目印をつけ、準決勝まで強敵と顔を合わせないようにした、というのだ。

 分別のある大学生、と思うのは、当方の思い込みで、その“幼児性”に、まず、がっかりさせられるのだが、彼らを、そこまで追い込んだ重圧があるのではないか。「勝つこと」だけしか視野にないムードが、手段を選ばせぬ行動へ走らせたのだろう。

 それを「不正」と思わぬ理性の乏しさ。そのように考えなければ、とうてい、この不祥事は説明がつかない。

 学生スポーツの運営には問題が多い。学生の自主性、といえば聞こえはいいが、多くのスポーツは、学生まかせだ。専任のコーチが配置されるのは、限られた大学の、それも限られたスポーツである。

 監督役のOB(OG)が、試合中に自分のチームの選手を「彼(彼女)の名前は?」などと聞く風景が、あたりまえに近くなっている。

 戦術も、技術も現代的なセオリーを持たぬ人が、引き受け手が居ないから、という事情で、ポストにつくから、精神力の強調だけで終始し、学生たちは右から左へと聞き流す。

 社会人の多忙さと、社会情勢を考えれば専任者を望むのは難しい、としても、今回は、最高峰の全日本学生選手権まで、全て学生が仕切っているような印象を受ける。そうでなければ、抽選に当事者が係わる、などという初歩的な誤りが起こるわけがない。

 学生役員は、所属校の利益代表ではないといった基本的な姿勢まで野放しになってしまっているのだろうか。

 あるスポーツの学生役員は、連盟に人を出せるチーム(大学)は限られると話す。部員の多い強豪校に頼らざるを得ないのだ。「部」以外の学生パワーを求めようとするような気風はのぞけず、相変わらず“自分たち”の枠に閉じこもる体育会精神とやらが、事件の背景にうかがえる。

 学生スポーツは学生の手で、とするなら、マネージメント、イベント、放送、新聞、広告、音楽など多彩な学生サークルとのジョイントを積極化し新しい発想の「学生の祭典」を生み出せばいい。

 全日本学生バレーボール選手権の直前までアテネ・オリンピック予選を兼ねたワールドカップが国内で開かれていた。

 日本の日程は、滑り出しで景気をあおれる相手を並べ、テレビ人気へつなげる巧妙なものだった。学生界が、大会の盛り上げのために「あの手を」と思ったのではないかといううがった見方も少なくないが、我々の組み合わせになんの仕掛けもない、と気骨を示してこそ学生スポーツだ。

 今回の事件は極端なケースだろうが、勝つことだけを無邪気に追い求めていては学生スポーツは、ますます世間から孤立してしまうのではないか―。

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「巨人軍」が「巨人」になる?
(岡崎満義/ジャーナリスト)

 ジャイアンツがおかしい。原辰徳監督辞任の頃から、球団フロントとチーム・選手の関係がギクシャクし始めた。犠打の世界記録を達成した川相選手が、今年で現役引退、コーチ就任といわれていたのが、原監督辞任で一転、現役続行となり、中日へ移籍した。

 上原投手の代理人問題ももめた。代理人の手続き書類にかきん瑕瑾があって、正式な代理人ではなかった、と球団側が契約更新後にコメント、弁護士が名誉毀損で訴訟も辞さない、と気色ばむ一幕があった。

 入来投手はポスティング制度を見据えて、代理人を立てて契約交渉に入ろうとしたとたん、日ハムの井出選手とのトレード話になり、文書合戦になってシコリを残した。

 どれもこれも、渡辺恒雄オーナーの代理人は認めない、という強硬な姿勢に、チーム内から強い反発が出はじめたのだ。小さな反乱だ。プロ野球界では代理人を立てることは認められているのだから、これは渡辺恒雄オーナーが理不尽といわれても仕方がない。原監督辞任も、これは読売グループ内の人事問題だ、と片付けようとして物議をかもした。

 渡辺オーナーは3年ほど前に、長いインタビューをしたことがある。プロ野球に対する情熱も十分、知識(とくに米大リーグについて)も豊富だ。よくいわれるような素人オーナーではない。ただ、その情熱の核となっているのは、巨人が強くなることがプロ野球の発展のみなもとだ、という強い信念である。1に巨人、2に巨人、3、4がなくて5に巨人、という感じなのである。

 その情熱が巨人強化のために、いささか強引な手法をとらせているように思える。それがこれまでは長嶋監督のカリスマ性で、大きなほころびを見せずにきたように思う。長嶋さんの人気、オーラがチーム・ベンチの中から消えて、ほころびが見えはじめた。長嶋時代までの巨人なら、上原や入来は代理人同伴を考えたがどうか。

 同時に、松井秀喜選手が巨人残留を強く要請されながら、自分の意志を貫き、結局ヤンキース入りを果たし、大きな成功を納めたことも、巨人の選手たちの気持ちに微妙な影響を与えているように思う。

 「巨人軍」に小さなひび割れが走ったのではないか。日本が第2次大戦に負けて、軍隊がなくなり、今、自衛隊を除けば巨人だけがなぜか「巨人軍」である。ほかに「軍」のつく組織はなさそうだ。平和ニッポンにあっても、ひとつ位、強く規律正しいかつての帝国陸海軍に似た「軍」があってもいいではないか、という多くの人のひそかな願いが、無意識のうちに「巨人軍」に込められていたのだろうか。

 「巨人軍」から「軍」がとれて、ふつうの「巨人」になるきっかけを作ったのが、今年の一連のジャイアンツ人事問題であるような気がしてならない。そして、それは日本プロ野球界で、巨人的秩序が揺らいできた、ということだと思うのだが、どうだろうか。

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「入来騒動」に見る巨人フロントと選手のお粗末ぶり
(高田実彦/スポーツジャーナリスト)

 巨人という球団はまったくお粗末な球団だ。

 お粗末というのは代理人を立てた入来祐作(31)への対応の仕方である。

@「代理人はダメだ」という渡辺恒雄オーナーのタブーに触れた入来をトレードという形で“追放”しようとしていること。これは、他の選手に対する“見せしめ”だ。

Aトレード先の日本ハムに、きちんと伝えるべきことを隠していたこと。これは相手球団に対する“ペテン”である。

 巨人がきちんと伝えるべきだったことは、入来が「1年後にポスティングシステムで大リーグへ行きたいと強く願っている」ことである。なぜあいまいにしていたかというと、もし日本ハム側が入来の希望を知ってしまってからではトレードを受けてくれないことになりかねないからだ。

 つまり、巨人は、代理人をたてたり大リーグへ行きたいといったりする“厄介者”を日本ハムに“だまして”追っ払う作戦だった、ということだ。

 トレードの真相は“見せしめの追放”なのだが、入来本人は、新チームへ行くことを喜んでいた。 巨人にいれば先発メンバーの末端に加われる程度だが、新生日本ハムへ行けば先発の柱になれるからだ。

 ところが日本ハム側には、事前に大リーグ行きのことがキチンと伝わっていなかった。そうと知った日本ハムは、「そんな損なトレードはしたくない」というわけだ。これが師走を賑わしている入来トレード紛争の真相である。

 なぜ巨人はこういうお粗末なことをするのか、一にも二にも球団幹部が「代理人は認めない」という渡辺オーナーの顔色をうかがい、自分の保身にきゅうきゅうとしていているからだ。
きっとフセインのような独裁者の下にいるものみたいな心境なのに違いない。 選手の気持ちも選手の権利もそっちのけである。お粗末というより、ひどい話だ。

 ところで、入来も入来だ。本気で1年後にポスティングシステムで声がかかると思っているのだろうか。希望を持つのはかってだが、曲がりなりにもプロだ、自分の力を知るべきだ。大リーグから声がかかると思っているなら、思い上がりもはなはだしい。チヤホヤされる巨人に何年間かいると、思い上がった選手になってしまうのか、という感じがする。

 今回の「入来騒動」は、巨人のフロントだけでなく、選手諸君も相当世間知らずであるらしいことを暴露している。

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