間もなく始まるオリンピック予選の話題で賑わうサッカー界だが、その中で今、最も注目を集めているのが平山相太だろう。今年の高校サッカー選手権で優勝した国見高校のエースストライカーとして、歴代のゴール記録を塗り替える活躍した彼に、このところ新鮮な話題に乏しいサッカーメディアが飛びついた形だ。 昨年12月にUAEで行われたワールドユース(20歳以下の世界大会)でも、大会当初の“スーパーサブ”的存在から、大会終盤にはエースストライカー的な存在にステップアップし、この大会の話題の中心となった。特に王者ブラジル戦で見せたヘディングシュートは、彼が世界的なレベルで通用する可能性を示唆するに十分なものだった。
そのゴールの成果かどうかは分からないが、現在18歳の平山が飛び級のごとく23歳以下の代表であるオリンピック代表にも名前を連ね、一部のメディアからはすでに中心的な扱いを受けている。 だが・・・。
「平山は大久保(嘉人:セレッソ大阪)や今まで私が見てきた他の選手と比べてみると、まだまだ体力的には弱さがある。できれば3、4年じっくりと育ててほしい」
今年の高校サッカー選手権の決勝後の共同記者会見で平山の恩師、国見高校小嶺総監督が放った言葉である。 平山の例をあげるまでもなく、近年高校サッカーの選手はフィジカル的なレベルが低下している。その一つの原因には、「最近の高校生は以前に比べて厳しい練習に耐えられなくなった」と小嶺総監督が話すように、現代の高校生の気質にある。国見高校に限らず高校サッカーのトップレベルの指導者は異語同音、同じことを話している。 だがもう一つのもっと大きな要因ある。Jリーグ開幕がしたおよそ10年前、Jリーグの関係者は口を揃えて「高校サッカーの指導は選手の将来を考えず、高校選手権に勝つことだけを目指す勝利至上主義だ」と高校サッカー界を避難した。
そしてこの10年、高校サッカーの指導者はこれに応え、指導方法を大きく転換した。その最たる点がフィジカルトレーニングの軽減である。成長期に過度のフィジカルトレーニングを重ねることの将来へのマイナスは計り知れないからだ。 例えば、現在トップクラスの高校チームでは、自重以上の負荷をかけたフィジカルトレーニングをするチームは数少ない。高校サッカー界ではフィジカル的に他を圧倒している国見高校でさえ「昔比べると走る量はかなり少なくなっている」(小嶺総監督)という。10年前選手権で初優勝した時、体力面で他校を凌駕した市立船橋高校も同様だ。当時と比較にならないほどフィジカルトレーニングに割く時間は減り、今年の選手権で平山同様注目を集めたカレン・ロバートは、「身体的に将来どんな風にフィジカル的に大きくなっていくか分からないから、3年間全くフィジカルの強化を行っていない」(市立船橋高校:曽我コーチ)と、個々の選手の資質を鑑み、必要以上にフィジカル的な負荷をかけることを極力避けている。 高校サッカー界は、Jリーグそして日本のサッカー界の要求に応え、新しい道を歩んでいる。だが、それ受け入れるJリーグ、代表はどうだろうか? まさに今、かつて彼らが高校サッカーを非難した“勝利至上主義”の道を進もうとしている。現在の平山の扱いを見るとそう思わざるを得ない。
もちろん、平山がオリンピックで活躍する姿を想像するのはとても楽しいことが、そのことが将来性豊かな逸材の未来への道しるべになるとは限らない。 今春、平山はあまたあったであろうJリーグからの誘いを断って大学に進学をする。それは小嶺総監督が、愛弟子を“潰されない”ために用意した道なのかもしれない。 |