ラグビーでは珍しい、というより、恐らく国内では初めての“できごと”ではなかったのだろうか。 アンドリュー・マコーミック選手(37歳)が旗を振りながら試合後の場内を1周し、観客へ別れを告げたのだ(2月21日、日本選手権3回戦東京秩父宮)。
“1人の選手”に光が当てられ、際立つことを極端に遠ざけてきたこのスポーツで、こうしたシーンが描き出されるのは、まだまだ時間がかかる、と思っていた。それだけに歴史的であり、印象的であり、感動的であった。
感動の部分には“背景”がある。92年シーズンに来日してからの東芝府中や日本代表での活躍よりも、ニュージーランドへの帰国の思いを振り払い、最後のホームが、釜石市のクラブ「シーウェイブス」だったことだ。前身はあの新日鐵釜石。
黄金期の攻守にしびれたまま、今なお「カマイシ」の名に魅せられ、ファンが囲むこのクラブに、マコーミック選手が加わるなど、それは、ある種のドリームチーム誕生、といえた。
同選手のモットーとする「ネバー・ギブアップ」はそのまま「シーウェイブス」の姿だった。
左ひざを痛め、この日は出場を危ぶまれていたが、釜石とマコーミック選手という、それぞれ接点のない栄光が、不思議に重なり合うドラマは、後半10分ほどから“開幕”した。試合の展開を離れ素晴らしいもの、を見ている気になった。
「シーウェイブス」は敗れ、マコーミック選手の別れが決定的となったあと、記憶されるべき“セレモニー”が、突如、始められたのである。
かざされる旗が、歓喜と祝福の風を送りつづけた「釜石の大漁旗」であったことが、いっそう素晴らしさを盛り上げた。
変革を告げようとする昨今のラグビーシーンだが、仕込みの目立つパフォーマンスよりも、はるかにフィールドとスタンド一体の「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」のほうが自然で、魅力的なことを示した、ともいえる―。 |