国際オリンピック委員会(IOC)は、これまでヨーロッパ地域のオリンピック放送権といえば、まっさきに各国の主として公共放送機構から成るヨーロッパ放送連合(EBU、1950年設立、本格的な放送業務の開始は54年)と交渉するのが“慣習”であった。というより、ほかの選択肢はゼロに等しかった。
ところが、2010年のバンクーバー(カナダ)冬季と、12年夏季両大会のヨーロッパ放送権の交渉は、いっさいをオープンにして入札で決めることを明らかにした。画期的といえる。
いまのところ、EBUの反応を入手できていないが、冷静に受け止めているとされ、事前に、この動きを察知していたようでもある。
12年夏季の開催地は来年7月、シンガポールでのIOC総会で決まるが、早くから本命とされていたニューヨークが、このところのアメリカをめぐる国際情勢の風向きで、予断を許さなくなった。名乗りをあげているヨーロッパのパリ、マドリード、モスクワ、ライプチヒ(ドイツ)などが意欲的だ。
そのタイミングでの放送権オープン。IOCはこれまでのようなヨーロッパ一括にこだわらず、単独の国内でも複数国の連合でも、入札の交渉に応じるとしているが、4月末の期限までに、どのような顔ぶれが手をあげるか、興味深い。
ワールドカップサッカーでは、96年に2002年と06年の2大会放送権を世界の公共放送連合と複数のエージェントの激しい争いの末、スイス・ドイツの企業連合が握っている(その後、このグループは経営破たんしてしまったが…)。
オリンピックも同様の展開にならないとは云い切れない。
仮に、ヨーロッパの放送権が国別、あるいは、いくつかのグループに分かれるようだと、日本の民放・NHK合体による「ジャパンコンソーシアム(JC)」方式が揺さぶられかねない。
以前から、IOCは、日本国内各局の競り合いに持ち込めないかと、水面下で動いていたものだ。
各局のスクラムが固い、というより、1局ではとうてい買い切れない額だけにJCは乱れない。
放送権料だけでアテネオリンピックは1億5500万ドル、08年の北京オリンピックは1億8000万ドル。12年は2億ドルラインを越えるだろう。
プラスされる制作諸費を考えれば、JC方式が日本のオリンピック放送を守る道、といえる。
80年代、採算を見込んでアジア大会の放送権を握りかけた国内のエージェントがあった。成功すればオリンピックも、の狙いが含まれていたが、各局との交渉は不調、断念せざるを得なかったことがある。
時代は確かに動き、変わっている。放送・通信の境も薄れ、ヨーロッパの決着しだいでは、今後の日本放送界のオリンピックをめぐる動きに何らかの影響を与えよう。注目していたい。
なお、10年冬季と12年夏季のアメリカにおける放送権は、NBCがあわせて22億ドルの巨額ですでに合意に達している。 |