監督が理想を追うのは当然だろう。しかし、その結果、選手を潰してしまう恐れが出てきた場合は、すみやかに理想を捨てて現状を直視すべきではなかろうか。
巨人の堀内監督の「4番高橋由」起用である。
堀内監督の高橋由4番起用の理由はこうである。「チーム生え抜きの4番をつくりたい」。その“御曹司”が高橋由だった。
この理想はよくわかる。老舗・巨人としては松井秀喜に続く“跡取り”がほしい。4番が他チームからの輸入選手では暖簾にかかわるからだ。これが生え抜き監督の気持ちである。
しかし、この期待に高橋由が応えられていない。9試合消化時点で打率は、打撃30傑の遥か下の39位で.139。無残である。不振の理由は、「4番」にあるとしかいいようがない。
高橋由は、必死にホームランや長打を狙い打っているが、そのために彼本来のシャープな打撃が消えている。打率が身長より下になる打者ではあり得ないのだ。
はっきりいうと、高橋由が、「4番に適した打者」になっていない上に、巨人が高橋由を4番にする「環境になっていない」のだ。
4番に適した打者とは、かの落合博満(中日監督)によれば、「チャンスに凡退しても平然と、ベンチで『デカイ面』のできる選手。負ければ『オレが打てなきゃ負けて当然だよ』といえる選手。自分を『長男』と自覚できるようになった選手」である。これは他の4番経験者も言っている「4番の資質」だ。
ところが高橋由は、これとはまったく違った資質の打者である。打者体質的には「二男」タイプで、切り込み隊長にはうってつけで、責任感が強く、反省が顔に出る方だ。
だいたい、プロ入りするとき、「野球をのんびりとやれそうなチームに入りたい」とヤクルトと西武を希望していた野球楽しみ派。巨人入りは、父親の強い希望を聞き入れた結果だった。
巨人に他に4番打者がいない環境なら本人も自覚する。しかし誰が見ても巨人には4番打者がゴロゴロいる。そういう連中に申し訳ないと気にする一方で、負けまいとする気骨もあるだけプレッシャーも余計に感じる。高橋由とはそういう好青年だ。
高橋由は今年こそ首位打者候補の一番手だった。自分に適した打順で打っていたなら今頃30傑のトップにいることだろう。そういう天才打者を潰しているのが、巨人の4番という位置である。
その点、長嶋監督は松井の4番起用に、まだるっこいくらい慎重だった。「1000日計画」といって、たっぷり時間をかけて4番打者につくり上げた。
この先人に学ぶ必要がある。
堀内監督は老舗の跡取りとして、お家の跡取りをつくることを考える前に、まず選手が実力どおりの力を発揮できるように配慮すべきである。監督に天才を殺す権利はない。 |