プロ野球の近鉄とオリックスが合併することになったが、近鉄の足を引っ張り続けていたのが巨人の渡辺恒雄オーナーだった。以下は、ここに至るまでの経緯と球界の内部での観測と私が感じた“点と線”だ。
私は、去年の秋に巨人が発表した大リーグの日本開幕戦の日程を見てびっくりした。 パ・リーグの開幕戦ともろにぶつかっていたからだ。松井凱旋の大リーグ初の日本での開幕戦がパ・リーグの開幕とかち合っている奇怪さ!私は東京中日スポーツのコラム「プロ野球プラスワン」(火曜日に掲載)で、「これはパ・リーグ潰しではないのか」と書いた。
というのは、日本での開幕戦は大リーグ側の希望で実現したのでは無いからだ。ヤンキースのスタインブレーナーオーナーは「読売の渡辺オーナーの強い要請で日本へ行くまでだ。何を好んで17時間かけて地球の裏側へ行って開幕戦をやりたいものか」と語っているのだ。
パ・リーグの開幕戦とぶつかることについて、一応、パ側に承諾は求めただろう。しかし、“松井凱旋”を誰が拒否できるか。球界の天皇の立場を背景にしたやり方である。
今春、近鉄が苦し紛れに球団名を売る「ネーミングライツ」を言い出した。真っ向から反対したのが渡辺オーナーだった。これについても私はコラム「プラスワン」で書いて同オーナーを批判した。
その前年に、近鉄がオーナー会議で「消費者金融会社に身売りしたい」といって承諾を求めたとき、大反対したのが渡辺オーナーで、「サラ金やパチンコ屋や外国のハゲタカに日本の球団を渡してなるものか」といった。パチンコ業界や外資系の会社の本格的な参入にもダメを出したのだ。
さらにその前にパ・リーグ側が「セパの交流戦」を持ちかけたときにも、「自分たちが経営努力しないで、他人のふんどしで稼ごうというのはムシがよすぎる」といって、パ側の頼みをけっ飛ばしている。
その逆に、率先して金のかかる自由獲得ワクをつくり、拡大して、経営難の球団を追い詰めていった。FA選手を次々に獲って“金満経営”を見せびらかした。
ことほどさように渡辺オーナーは、ことごとく近鉄や経営難の球団の行く手に立ちふさがってきたのだ。同オーナーの言うことに一理があるといえば、ある。しかしいまプロ野球を一緒にやっている仲間を運命共同体と考えて、何らかの対策や代案を出したかというと、何も出していない。 私はこういう専横ぶりを、やはり「プラスワン」で批判した。
渡辺オーナーはプロ野球界を運命共同体とは考えていないのだ。むしろ、「やっていけないところは潰れればいいんだ。それが自由競争というものだ」と考えているのだろう。
近鉄とオリックスの合併話が明らかになると、スポーツ新聞が一斉に「次はダイエーとロッテが合併する」と書きたてた。球界内部で、近い将来の話、として囁かれているからだ。
渡辺オーナーは他人が言い出した1リーグ制には反対だが、巨人の人気が低落の一途をたどり始めた数年前から、1リーグ制にして人気挽回をはかりたい気持ちでいたのだろう。そこで、「死滅する球団が出てきて仕方なく1リーグになる」という形をとって1リーグにしたい、と考えていたとしか思えない。
2リーグ制はプロ野球生みの親・読売新聞社の故正力松太郎社主がプロ野球発展のためにつくった制度である。だから、これを自分の手を汚して潰したという“汚点”を残したくないがために、経営弱体の球団の足を引っ張って死滅するのを待っていた、それがたまたま近鉄だった、ということになりそうなのである。 |