近鉄とオリックスの合併話が進む中で、IT系企業のライブドア社が、近鉄買収に名乗りをあげて、1リーグ制か2リーグ制かの大問題も含めて、先行きが見えにくくなってきた。
そんな折、評論家の堺屋太一氏が持論の「知価社会」論をふまえて、プロ野球を論じている。(週刊朝日7月9日号)
「問題の大阪近鉄バファローズにしても、年間観客動員数(ホームゲームだけで)143万人、サッカー最大のアルビレックス新潟の2倍以上」「プロ野球の存在感は、観客動員数でも報道量でも断然大きい」
それでいて、大赤字の垂れ流しというのは、親会社の広告宣伝費にもたれかかって、しっかりした経営をしてこなかったこと、そして何よりも規格大量生産型の近代工業社会にどっぷりと浸って、1990年頃から社会の風向きが大きく変わったことに対応しきれなかったことによるという。 つまり「客観的な品質よりも主観的な好みが優先される」知価社会が始まったことに、まったく気付いていない、というのだ。
「アメリカでも、知価革命が進行していた80年代後半、プロ野球は経営危機に陥った。このときユベロス・コミッショナーの採った対策は、地元密着型のチームをつくって球団数を増やし、より激しい競争をさせることだった。今、日本のプロ野球がしようとしていることの逆である」 サッカーのJリーグと違って、日本のプロ野球は地域密着の努力が足りない。地域密着、フランチャイズの徹底化こそ、危機突破の道筋だ、というのである。
このエッセイと同じ頃、日刊スポーツに元オリックス球団代表・井篦重慶さんのユニークなコメントが載った。
「日本球界のフランチャイズ制はもはや崩壊している。1リーグになるなら、各都市をフランチャイズにするのをやめて、全国をプロ野球機構のフランチャイズにする日本式をつくればいい。ホーム球団が売り上げを全部とるのをやめる。営業活動自体が縛られる地域権を撤廃し、フリーにすれば新しい営業形態もできる。神戸のダイエー戦では、ビジターも売り上げの何%かをとる。ダイエーも神戸でオリックス戦の切符を売る形にする」という斬新な意見だ。
堺屋氏の意見とは正反対といえるだろう。私はあえて言うなら、井篦派である。地方の時代、地域活性化…と、色々「地方」が話題にのぼるが、そのかなりのものは「地方」のレッテルをまとってはいるが、ミニ東京化への意思が見え隠れしている。日本人はやっぱり中央=東京指向ではないか。
広い国土、多民族、時差もあるアメリカとは、地域のあり方が違っている。狭い国土、地方の過疎高齢化、高度情報化社会の日本では、アメリカ流の地域権は成立しにくいのではないか。
黒字球団の巨人、阪神を見れば分かるように、5万人収容できる東京ドーム、甲子園球場があって、さらに全試合をテレビ中継する仕組みが加わってこその黒字である。
野球は5万人、サッカーは1万人が経営ベースのように思う。5万人をベースに経営できる地域は東京、阪神のほかにない。数千人から1万人の規模で経済・文化的な価値が成り立つようなシステムが出てこなければ、地域権をベースにしたプロ野球はありえないように思う。この点が解決しないかぎり、近鉄・オリックスが合併しようと、ライブドア社が買収しようと、プロ野球の危機は解消されないだろう。
政府が大きく旗を振る市町村合併の流れなどは、まさに地域の価値を消し去ろうとしていることではなかろうか。「巨人ぶらさがり型経営」が批判されるが、国家的規模で「東京ぶらさがり型地域経営」が進められているのだから、野球界がそうなるのも無理はないといえる。
かつて、サントリーの故・佐治敬三元社長が、いつまでたってもサントリービールのシェアが10%に到達しないのを嘆いて「いくら舌は保守的なものとはいえ、10人に1人ぐらいは、日本人にも変わり者がいると思ったんやがなあ」といったのを聞いたことがある。群れたがる日本人から、変わり者は出にくい。テレビという巨大なローラーは、全国を均一化する力は強いが、変わり者を育てるより、踏み潰すことが多い。
現状では、日本国内だけで地域権を云々するのは現実的ではない。あくまで地域権に固執しようとするなら、東アジア、あるいはパンパシフィックまでを視野に入れる必要があるだろう。 |