“黒い存在”が噂の域にあるうちは、否定する側も強い姿勢を示し共感も得られるが、それが事実に近いとなれば失望、幻滅(げんめつ)の悲哀は、深くなるばかりだ。 オリンピック招致をめぐる買収疑惑・・・・・・。 8月4日夜、イギリス放送協会(BBC)が放送した報道番組は、タイトルも「オリンピックを買う」というセンセーショナルなもので、世界の主要テレビ局が、この番組の一部をニュースとして採りあげ、波紋を広げた。アテネ・オリンピック開幕まであと9日という時点、ショック度も大きい。 日本の各局が報じた内容をまとめると番組の大筋は、集票を手がけるエージェントが、国際オリンピック委員会(IOC)のメンバーに接触し、買収工作を仕掛けるシーンや会話が、ロンドンの企業コンサルタントを装ったBBCの記者に隠し撮りなどで暴かれる。 エージェントの存在や、マネーと引きかえに1票を差し出すメンバーが居るようだとの風聞は、オリンピック開催地の投票が行われるたびにささやかれていた。 オリンピックではないが、2002年のワールドカップ開催地をめぐって日本と韓国が激しい争いをくり広げていた時、日本サッカー協会の首脳の1人は、「週に一回は、エージェントを名乗る見ず知らずの人が、票を集めてあげよう、といった声をさまざまなルートから伝えてくる」と苦笑まじりで話してくれた。 スーパーイベントの誘致合戦では、必ずつきまとっていた“話題”でもある。 オリンピックともなれば、その跳梁(ちょうりょう)は凄まじかったに違いない。だがその正体は闇のなか。そこにBBCは潜入したのだ。 オリンピック招致をめぐる疑惑は、最近では98年のソルトレークシティー冬季大会(アメリカ)が生々しい。 IOCは、この騒ぎで6人の委員を追放し、委員の現地視察を禁止するなどを盛りこんだ招致のルールを定めた。 総てに透明性を求めるジャック・ロゲIOC会長(ベルギー)は、このルールの施行で一息ついたハズだったが、根は浅いものではなかったようである。 疑惑を報じられた委員をすぐに資格停止処分とし、IOCは、イメージの回復に懸命で、アテネにおける諸会議では倫理に違反する行動への警告が発せられている。 BBCが報じた買収工作は2012年の夏季オリンピック開催地をめぐってのものだ。 今年5月、候補地の1次選考が行われ、来年7月のIOC総会(シンガポールの予定)で、投票が行われるのはロンドン(イギリス)、パリ(フランス)、マドリード(スペイン)、モスクワ(ロシア)のヨーロッパ4都市とニューヨーク(アメリカ)にしぼられている。 BBCの記者は、ロンドンのために票を集めようとする企業の社員を装っていたが、取材の狙いも興味あるところだー。 |