プロ野球の合併・スト騒動も異常だが、グラウンド上でも異常としかいいようがない現象が起こっている。いやこれは、いいことなのかよくないことなのかは別にして、“作為的”に作られた異常な現象である。
最初に次の数字を見てもらいたい。 セ・リーグ 808→781→826→987→962。 パ・リーグ 753→1021→869→1000→867。
これは2000年からのリーグ本塁打数である。当然のことながら、今年は120試合前後の消化時点で、まだ各チーム15試合前後残っている。(00年130試合、01年と02年は135試合、03年と04年140試合)
ことにセ・リーグのホームランが激増しているのだ。この分でいくとセ・リーグは史上初の1000本の大台に突入する。これはパのホームラン打者ローズと小久保がセに加わったからではない。
だいたい、いっちゃ悪いが、広島の一軍1年生の嶋が31本、20試合も欠場していた巨人の阿部が29本、もっといえば横浜の多村が「24年ぶりにチーム日本人最高を更新」の37本、ヤクルトの岩村が「ペタジーニに次ぐチーム2番目」の40本を打っているのは常態ではない。彼らがにわかに長打力をつけたのか?
そうではないのだ。“飛ぶボール”のなせる業なのである。 ヤクルトも横浜も、今年からM社製のボールに切り替えた。巨人はもともとM社製。広島、阪神は2社のボールを使っているが、今年からM社のもミックスして使うことにした。昨年まで使っていて今年やめたのが中日である。パはほとんどM社製を使っている。このM社製のボールがいわゆる“飛ぶボール”である。
もちろんどこの社製でもすべてコミッショナーが車両検査研究所に依頼している検査に合格しているボールであるし、試合前から審判部が管理して、どんな細工もできないようにしているが、業者によって飛ぶ距離が違うのだ。M社は、「ウチのボールは、コルクの芯の周りに巻く毛糸をほんのちょっと他社より多く巻いている。それだけ丁寧に作っているんです」というが、規格に合格しているのだから、業者側には作為も落ち度もない。
しかし実際によく飛ぶのだ。それは12日のヤクルト岩村のホームランに端的に現われていた。低めの球を片手でミートしただけといえるような打ち方でボールが東京ドームのライトスタンドに入ってしまった。M社製だ。
こういうことがあるから中日の落合監督は6月半ばから、「ウチは守って勝つチーム。怖いボールは使わないの」といってM社製を使わないことにした。
どの社のボールを使うかは球団の勝手だから、“飛ぶボール”を使うチームはそれなりの戦略があってのことで、また、パのように「ホームランが出た方がお客さんが喜ぶじゃないか」という商売上の選択もある。
そこでコミッショナーにいいたい。“飛ぶボール”を何とかしろというのではなく、「この際いっそのこと、ボールを大リーグと同じ規格で作らせろ」と。大リーグはスポルディング社一社だけのボールを使っており周知のように、ルールの許容範囲の上限で作られている。それに対して日本製は最も下限で作られている。これを大リーグと同じ上限にすることだ。
ひところはボンボンとスタンドに飛び込む試合が歓迎されたが、目の肥えた最近のファンは、そういうのに味気なさを感じてきているようだ。アメリカにいたとき、日本流にいえば“飛ばないボール”で野球をやってきたパワーのある外国人打者がバカバカ量産するのがおもしろくなくなってきているのかもしれない。
大リーグとの距離が接近している昨今だ。この際、大リーグと同じルール上限で作ったボールにすべきだと思う。 今回の騒動でコミッショナーは、何か考えがあってのことだろうとは思うが、「私は労使に決められた範囲で仕事する立場」といって逃げ腰のように見える。しかしボールの問題は、労使の問題ではない。 |