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【角田麻子】パラリンピック水泳会場に見た、スポーツの本質(アテネ発)




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パラリンピック水泳会場に見た、スポーツの本質
(角田 麻子/スポーツライター)

 車椅子競技ばかり見ていたのだが、最終日前日の27日なってようやく水泳会場に足を運んでみた。
 
 おめあては、今大会シドニー大会にならぶ6つの金メダルを獲得している成田真由美選手。彼女にとっての大会最後の個人種目・競泳女子五十メートル自由形に出場するのを、ぜひこの目で一度見てみたいと思ったからだ。

 車椅子のチーム競技は、障害レベルの違う選手たちにそれぞれ決められた「持ち点」があり、その持ち点によってポジションや作戦などが決められ、1つのチームで戦う。
 
 「車椅子」という道具を使うため、片足切断や脊髄損傷、機能障害や、上肢の障害など、障害の状態の違いはそれぞれにあるにしても、一応「車椅子」というひとつの同じ条件で戦うことになる。
 
 陸上も障害レベルに合わせたクラス分けはあるものの、種目によっては「車椅子」や「義足」という道具を使うことで同じ条件で競技をし、時にはその「道具」の機能の差が結果に影響することもあり、記録や結果の追求は身体と道具の両方で進化している。

 では水泳はどうか。
 
 成田が参加した競泳女子五十メートル自由形の障害クラスS4といのは、10クラスに分かれた障害レベルの重い方から4番目。出場する選手も両下肢が膝下からなく右腕もひじからない選手や、右腕右足の成長が止まってしまって小さい選手も。両腕のない選手はバタフライの要領で足を使って泳ぐなど、状態はさまざま。「クロール」ではなく文字通り「自由形」だ。
 
 そんななか成田は、両下肢が麻痺で左手の一部も使えないとはいえ、きれいに大きく動かしながらぐいぐい進む、その腕だけを見ると「障害者」とは思えない泳ぎは、他を寄せ付けず圧倒的強さでトップでゴール。7個目の金メダルを獲得した。

 障害レベルを細かく分けると、戦う選手が少なくなる。かといって、いろんな障害レベルの選手を一緒にすれば不公平が生じる。
 
 ドーピング問題など、パラリンピックでも「勝つ」ことを第一とする傾向にある中で、競技としてどこまで公平さの中で競えるかが、今後の課題にもなると思う。

 水泳会場では、義足をつけて入場してきた選手も、スタートでその義足をはずして競技に挑む。たくさんの観客の前で、障害を持つ本来の自分の姿に戻るのだ。

 オリンピックの北島クラスになれば、水の抵抗を少なくする水着という「道具」も記録に大きな影響を与えるのだろうが、障害者スポーツの中ではその水着によって変わるタイムで競うレベルにはまだなく、泳ぐという動作の助けにはならない。
 
 文字通り、自らの身体ひとつで戦う。
 
 それは、下肢が悪いとか上肢がないとか状態の違いで勝った負けたではなく、今ある自分の身体で、自分自身がベストを尽くして戦うことの大事さ、すごさを見せてもらった。

 7冠を取った成田選手だが、メダル獲得後のコメントでいつも「メダルの数は気にしない」と言っていた。競泳女子五十メートル自由形でも自己の持つ世界記録を100分の1秒更新した彼女。
 
 それは、金メダルがあくまでも「自分自身がベストを尽くして戦った」後についてくるものだと、わかっているからもしれない。

 障害者であろうとなかろうと「自分にあきらめないで戦う」。これがスポーツの原点ではないのだろうか。
                           (アテネ発)

 



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