またも、「パラリンピック初勝利」が逃げてしまった。 24日行われたウィルチェアーラグビーのベルギー戦。日本代表はオーストラリア戦に引き続き、途中まで先行しながら、最後の最後で同点においつかれての1点差逆転負けを喫した。
ウィルチェアーラグビーはシドニー大会から正式種目となったが、日本代表がパラリンピックに出場するのは今回が初めて。参加8ヶ国のうち、世界ランクは8位ではあるものの、世界ランク1位のアメリカとの対戦でもまったく歯がたたない負け方をしたわけではなく、ある程度やれる手応えをつかんで、まずは「1勝」を目標に戦ってきた。
その日本代表に思いがけない「敵」。それは「持ち点変更」という、事前に知らされていなかった持ち点審査が行われたことだ。 ウィルチェアーラグビーでは、選手がそれぞれの障害レベルに合わせて0.5から3.5の持ち点が決められており、コートに出る4人の持ち点の総合が8.0点以内でなければいけないというルールがある。
同じく車椅子のチーム競技である車いすバスケットボールも同じようなルールがあるが、ウィルチェアーラグビーは下肢だけではなく上肢にも障害のある選手が多いため、その選手の持ち点内でできるプレーで、ポジションや役割が決められ、出場する選手が8.0点内になるよう組み合わせて作戦を考える。
日本代表もパラリンピック出場に向け何度となく合宿を行い、選手それぞれの持ち点による攻撃やディフェンスのフォーメーションを練習してきた。
それが、パラリンピックという本番になって、今さらいきなり「持ち点審査」。 障害によるプレーのレベルをチェックするということなのだが、その審査方法の基準も明確ではなく、予選をしながら「審査」するという適当さ。つまり予選のたびに持ち点を変えられしまうこともあり、まともに作戦がたてられない。
日本代表は予選第2戦のオーストラリア戦でがんばった選手が、軒並み持ち点を上げられてしまい、コートの4人の選手のトータルが8点になるような組み合わせを、新たに考えなければならなくなってしまった。
さらにこの持ち点審査で、この場に及んで伊藤・川村の両選手は持ち点を4.0とされ、選手登録すらできなくなってしまったのだ。なんのために長年この競技を続け、日本代表に選ばれ、練習を積んでアテネに臨んだのか、選手のショックは計り知れない。 この持ち点審査は「世界大会で3度審査を受けた選手」は免除とのことで、アテネに来て、持ち点を大幅に変更させられたのは日本選手だけではないが、本番のアテネに来て、出場さえできなくなる選手が出ることは尋常ではない。
障害が重くとも、本人の努力と訓練で動きがよければ、それはその人の持つ障害は「軽い」と見られてしまうこの審査。競技における「技術」と「障害レベル」とがごちゃまぜになっている、明確な基準のない、頑張れば頑張るほど不利になるという不可解な審査は、「障害者スポーツ」ならではの問題だ。 日本代表キャプテンの福井は「もう今さら持ち点がどうとか言ってもしょうがない。ただやるだけだから」と、こぼれる涙を必死にこらえていた。
念願の一勝へ。アテネまで来て出場できなくなった選手の気持ちも力にして、この逆境に立ち向かってほしい。 (アテネ発) |