おそろしく威勢のいい新刊書を2冊読んだ。 「プロ野球買います! ボクが500億円稼げたワケ」と「稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方」(光文社刊)。2冊とも著者は、今話題の人、プロ野球を震撼させるライブドア社長・堀江貴文さんだ。 ひと言で言えば、デジタル派の若い旗手が、旧世代アナログ派に殴りこみをかけたような本だ。とくにアナログ派の真ん中に、とぐろを巻いている老害経営者を叩きつぶそうという、鼻息の荒さだ。怖いもの知らず、老害守旧派清掃屋、といったおもむきである。 「稼ぐが勝ち」は堀江さんの経営哲学のラフスケッチのような本で、見出しもなかなか過激な言葉がおどっている。 ・
「貯金をしなさい」は間違っている ・ 会社とは人を使うための道具です ・ 大学は1ヶ月でやめる ・ 人の心はお金で買える ・
部下をほめてはいけない ・ 自己中でいこう 読みはじめて、これは途方もない荒れ球の剛速球投手かと思ったが、2冊読み通してみると、アナログ派の私にも、あまり異和感がなかった。挑発的な言葉づかいに慣れてくると、すんなり読める。まっとうな意見が多かった。 アナログ派でも、成功して大金を稼いだ経営者なら、「人の心はお金で買える」ぐらいのことは、内心では考えているはずだ。ただ堀江さんのように、あっけらかんとそれを口に出さないだけのことだろう。 「僕の理想は、『シンプルに』『こだわらず』『考えない』経営です。複雑に考えずに常に基本に返る」 「(長嶋茂雄は)一見シンプルに見えるかもしれません。野球選手の評価やテクニックについてズバリと言い当てるからです。 しかし、長嶋茂雄はシンプルの人ではなくて、フィーリングの人なのです。天才であることは間違いありませんが、あの人が思ったり感じたことは、最終的に他人には伝えられないと思うのです。だからみんな真似できない。長嶋茂雄になりたくても、本人以外には長嶋茂雄ではいられない。他人の直感とかフィーリングのユニークさというものは、理解はできても会得できないものです。しかし、僕のやっていることは誰でも真似できると思います」 このあたりは、冷静な人間観察のできる人であることをあらわしている。武士は食わねど高楊子、の丁度真反対の、拝金主義をカラリとあるいはヌケヌケと言ってのけたところが、IT時代の新世代デジタル派たるゆえんかもしれない。 プロ野球をインターネットに取り入れることによって、それは思いもよらない魅力的なコンテンツとなる。ITの活用でファンにキメ細かいサービスができ、インターネット中継で楽しさを100倍にできる。球団経営を黒字にすることは、いとも簡単、というのが堀江さんの主張である。 「僕は5年以内にテレビを中心にしたマスメディアの大再編が起きると考えている。5局ある民放のうち1〜2局が合併吸収されてもおかしくない」という見通しを持つ堀江さんが、IT、インターネット大時代の野球を考えているのだが、それを読んでいると、プロ野球がケータイのなかに小さく納まる情報と化してしまいそうで、アナログ派の私には、今ひとつ魅力がない。 2冊を読んでみて、堀江さんは猛烈な仕事人間であることがわかる。誰でも真似ようとして真似られるものではない。アナログ派顔負けの仕事人間であるわりに、汗の匂いがしないところが、デジタル派ということか。 堀江さんは1972年生まれ、イチローが1973年生まれ。スポーツ以外の分野でも、そろそろ30前後のスゴイ人間が出ると思っている。イチローの深さには及ばないが、堀江さんもそのはしりだろう。 |